3:ローパー~ノーム〜王子〜???

第27話 アルト様の足腰が立たなくなるまで☆

「メディちゃんの髪、ふわっふわで可愛いー」


 盗賊キアとイメルダを撃退した翌日。

 俺の自宅で、2人の少女がキャッキャウフフしていた。


 1人はもちろんメディ。ピンク色のショートカットに、愛らしい美貌。椅子に座った彼女の髪を、うしろに立ったもう1人が羨ましそうに撫でている。


 デコられたマニキュアの、細くて白い指。


「ニューちゃんの髪も、きれい」

「えー、そうかなぁ? 嬉しいなぁ」


 メディと同じくらいで15歳ほどの外見。

 ただし元はモンスターなので年齢は不詳だ。


 彼女の名前はニュー。メディと仲良くなった例のローパーを俺が《キャラクターメイク》で変身させた、新たな美少女である。よく「うにゅにゅ」と鳴いていたからニューと名付けた。


 外見は、ざっくり言うなら、フリル付きのカチューシャと黒髪ロングが似合う地雷系女子。

 黒目がちな目元にはばっちりメイクが施されているが、元の造形がいいのでメイク負けしていない。(俺が作ったんだけど)


 ローパーとしての名残は髪型のシルエットくらい――いや、もう1つあったな。彼女の身を包んでいるフリフリなメイド服。その腰元から2本のリボンが伸びていた。


 あれは彼女の触手だ。

 自在に動かせるそのリボンで、やはりメディの髪を触っている。


「親近感~。私ね、ずっと【メデューサ】様にあこがれてたんだ。触手っぽいし?」


 あーなるほど。

 ローパーの触手とメデューサの蛇頭か。たしかにちょっと共通点があるな。


 だが美少女化した今は、まったく違うタイプだ。顔だけじゃなくて、健康的にエッチな体型のメディと、スレンダーなのに妙な色気を漂わせるニュー。


「でもねー? 私みたいな下っ端がメデューサ様に近づくなんて恐れ多いでしょ? それに目が合ったら石になっちゃうしー」

「めでぃ、石にしないこともできる! ようになった! アルトさまのおかげ!」

「うんうん。アルト様には本当に感謝だよ。私のこともこんな可愛くしてくれて☆ ね?」


 鈴の鳴るような声で言って、こちらにウィンクしてくる。


「俺はそれぞれの個性に合わせてるだけだから」


 もちろん意図的にデザインしている部分はある。朧のときのキツネ耳や、ニューの髪型シルエットとか。でも基本は――


「閃きに従うってやつ」

「わー、センスタイプだ? アリ~☆」


 なにがアリなのかはよく分からない。

 しかし、こんな軽いテンションの女子でもメディとは意気投合している。


「ニューちゃんもここに住めばいいのに……」


 メディが唇を尖らせる。


「ごめんね? 私、人と暮らすの無理で」


 もともとローパーは群れを作らず、ダンジョンの隅でひっそり暮らすモンスターだった。その習性からか、美少女化したニューも一人暮らしを望んだ。


 だから俺は、ここから少し離れたところにニューのための小部屋を作ってやった。この家は広々とした一軒家だが、ニューの住処は手狭なワンルームアパートみたいな間取り。


 そこに、この外見によく合ったフリフリなベッドや、お姫様っぽい衣装ダンスなどをギュウギュウに詰めてある。これも彼女のリクエストどおり。


「それにアルト様と一緒に寝ちゃったら……」

「ん?」

「この触手で襲っちゃうから。アルト様の足腰が立たなくなるまで☆」

「『キラン☆』じゃねーんだわ」


 リボン状の触手はニューの意思で形態を変えられる。もとと同じ、粘液たっぷりの触手にもできるわけだ。


 まあ襲われたところでローパーは【銅級】。さすがに俺も抵抗するけどな。


「でもでも、アルト様がその気になったらいつでもお家に来てね? 私、4人くらいに分裂して、みんなでメチャクチャにしてあげる☆ いーっぱい卵産んであげるから。ねっ?☆」

「だから『ね☆』じゃないんだよ」


 怖いから。

 朧ほど崇拝されるとそれはそれで堅苦しいが、だからと言って襲われるのも勘弁だ。


 地雷系な美少女に、寄ってたかってドロドロになるまで襲われるなんて……そんな……そ、そんなこと、嫌に決まってるよな???


「それじゃアルト様、メディちゃん。また来るね。バイバーイ」


 触手と手を振って、ニューが自室に帰っていく。

 ――が、玄関を出たかと思うとすぐに戻って来て、


「――アルト様。変な人たちが来てるよ」

「変な人たち?」


 外に出てみると、いつの間にかモンスターが押し寄せていた。1種類のモンスター。背丈は小さく、ちんまりとした2頭身。


 爺さんみたいな真っ白のヒゲをしたのや、女の子っぽいのもいる。


 こいつらはノームだ。

 ランクは【銀級】。


 凶暴さはまったくなく、モンスターというより妖精の亜種に近い。30体ほどのノームの集団。その先頭に立っていた女の子っぽいノームが、さらに1歩前に出る。


 そして小さな拳を振りかざし、俺に訴えかけてきた。


「ムーー!」

「?」

「ムーーーー!!」


 いや、わからんて。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る