第21話 姉御まで淫らなことを!?


  ■ ■ ■


 

「キアの気配……この中から感じるね」


 荒くれ者の盗賊たちを束ねる女傑――イメルダは、不審な洞穴の前で腕を組み、


「あんたたち、キアを最後に見たのは今朝だったね?」

「へい姉御!」


 今はもう夕方。偵察にしては帰りが遅すぎる。

 不審に思ったイメルダは、アジトから手下を連れて探しに出ていた。

 

 ここに連れてきたのは男3人。いずれもイメルダに心酔している部下たちばかりだ。イメルダの盗賊団はほとんどが男で、女はイメルダとキアだけ。


「キアちゃん、迷い込んじまったんスかねぇ?」

「先走りやがってよぉ、おチビちゃんが」

「今ごろビビってお漏らししてたりしてなぁ? ガッハッハ!」


 気のいい奴らではあるが、デリカシーはない。イメルダもキアも気に留めないが、世間では煙たがれるタイプばかりだろう。


「うし、そんじゃ俺が首根っこ捕まえてちょちょいっと――うぉッ!?」


 洞窟に入ろうとした部下が、その入口で何かに弾かれたように後ずさる。

 

「どうしたんだい?」

「い、いや、ここ何かあるような――」

「馬鹿言ってんじゃねぇ。なんもねぇじゃねえか……って、なんだぁ!?」


 男3人、いずれも透明な壁にでも阻まれて手こずっている。


「トラップかい? アタシに任せてみな」


 手を伸ばす。

 ……何もない。


「へぇ? そんなはずないんスけどね、うわっち!? やっぱり何かありますって!?」

「…………。男は通さない、って類いかね」


 ますます怪しい。

 女だけを誘い込む洞窟――


「――ダンジョンか。キアはここに囚われてる可能性が高いね」

「えっ!? キアちゃんがあんなことやそんなことを!?」

「俺たちの、心の妹が!!」

「キアたん! 俺らのキアたんを助けろ!!」

「あんたらね……」

 

 ノンデリカシーな野郎共に囲まれて、キアの教育に悪いことはイメルダも重々承知だが。手を出すタイプの男たちではないので、取りあえず放置してしまっている。


「アタシが迎えに行ってくるよ。――なんにせよ、そのほうが都合いいだろう」


 もしもキアが『酷い目』に遭っていたとして、目撃するならせめて同性のほうがいいだろう。


「そ、そんなっ!? 姉御まで淫らなことを!?」

「ヤベーですって! 姉御はプロポーション抜群なんスから!」

「餌食ですよ餌食!? いやらしいモンスター共の!」

「……行ってくるよ」


 さすがに躾が必要かもな、などと考えつつ、イメルダは暗闇へと足を踏み入れていった。



 ■ ■ ■

 


「本当にやって来たな――」


 新たな侵入者・盗賊イメルダの姿を、壁に映したモニターで観察する。

 キア以上の盗賊スキルに、落ち着いた立ち振る舞い。未知のダンジョンでありながら冷静さを失わず、かといって大胆さも忘れない。手強そうな相手だ。


 ちなみに、キアはいまだに入浴中。俺を離すまいと必死だったが、ジャグジーをONにして誤魔化してきた。なにかあれば監視に残してきた朧から念話が入るはずだ。

 それから俺も服を着直して、今はダンジョンの通路に身を隠している状況。


「さて、どうするかな」


 盗賊はトラップへの耐性がばつぐんだ。一流の冒険者並みに勘が鋭く、トラップを解除する能力にも長けている。今もいくつか仕掛けてみているが、イメルダにはあっさり突破されている有り様だ。


 ……となると。

 ゲームでもそうだったんだが、盗賊にはモンスターをぶつけるのがいい。戦闘能力は【銅級】そのもの。強力なモンスターを派遣すれば、簡単に倒せるだろう。


 ただし。倒すことが目的じゃない。

 外の騒ぎは最小限に抑えたいし。


「また朧に出てもらうか、それとも――」


 強力なモンスター。

 俺の『仲間』でいうなら、最強はもちろんメディだ。


 じつは彼女は、俺が人間の姿にすることによって石化能力のON・OFFを切り替えられるようになっている。前みたいに、目が合った者を問答無用で石に変えることはなくなったわけだ。


 それでも、凶悪な能力であることには変わりない。

 石化すれば、それはイコール死だと言っていいだろう。

 

 ……もっとも、原作ゲームでの挙動から察するに『時間が経てば元に戻る』可能性はある。

 ゲームでは、石化したはずのキャラクターが時間を置けば戻ってくることがあったからだ。まあ、ゲームの仕様上の話だ。こちらの世界で同様の現象が起きるかは試してみないと分からない。


「つってもなぁ……石像になったイメルダを盗賊団に見られたら」


 結局は騒ぎになってしまう。そうなれば、この危険なダンジョンを攻略するために次々と侵略者が現れるだろう。

 そんな事態は避けたい。


 手っとり早くメディの石化能力を使いたい。

 だが、石化させたままにはしたくない。

 どうすれば――


「ウニュルルル――っ」

「うおっ!? なんだ、ローパーか?」


 さっき浴場で使役したローパーが俺に付いてきていた。……このローパーでもイメルダには勝てるかもしれないが。


 無理やり連行して風呂に浸けるか?

 でも、それで堕ちるとは限らない。第一、イメルダは風呂に入りたがらない性分らしい。キアと同じように、ただの『食わず嫌い』ならいいけれど、本当にただ風呂嫌いなら効果は限定的だろう。


「悪いが下がっていてくれ――、いや待った」


 タコみたいなローパーの頭上に、見慣れないものが『表示』されていた。


 [▼]


「ドロップダウンリスト?」


 インターネットのサイトとか、表計算ソフトなんかで見るアレだ。今までこんなの見えなかった気がするが。

 とりあえずカーソルを合わせてみるか……。


「おっ? なんだこれステータスか? 設定?」


―――――――――――――――――― [▼]

ローパー【銅級】

触手を武器にする低級モンスター。魔力は弱

く体力も低いが、6本の触手の筋力は強く、

女冒険者を拘束し■■■したり、■■を■し

て、逃れられない快楽を与える。

粘性の高い体液は、女性の■■を■るのに最

適で、女冒険者の■■においては【白銀級】

と呼んでも差し障りなく…… 

―――――――――――――――――――― 


 こんな設定文があったとは。

 でも、ゲーム中でも見た覚えがないような……?


―――――――――――――――――― [▼]

……なお、デザインは■■先生の同人誌から

着想を得ており、本ゲームの作成にあたって

■■■先生にアレンジしてもらったもの。ベ

タだけど、やっぱエロには触手っしょ、って

ことでゴブリンの次に企画したモンスター。

本当は触手が■■したり、■■■で女の子を

■■して■を産みつける設定も考えたが、

さすがに【銅級】でそれは強すぎない?って

ことでボツに。

つーか、そういう美味しいプレイはもっとプ

レイ終盤に入れたほうがいいよねと思った。

そんで、序盤用なので弱点も増やした。氷、

火、金属には特に弱い。盗賊にも負けるくら

いに調整。キアとは互角くらい、イメルダに

は勝てないくらいで落ち着いた。……

――――――――――――――――――――  

 

 ??

 もしかしてこれ、制作者の目線じゃないのか。裏設定ってやつ? たしか、弱点属性も公表されてなかったよな。ネットの有志が解析してやっと判明したって話だった。


「これ、使えるな」


 見ておいて良かった。仮にローパーでイメルダを襲わせても返り討ちにあっていただろう。ローパーで無理なら、やっぱり朧かメディの出番だが――


「お。まだ続きがあるぞ」


―――――――――――――――――― [▼]

……なお、もう1つの特徴である『分裂体』

の生成。じつは本体以外に生命は宿らない。

ゆえに、女冒険者に切り捨てられようと潰さ

れようと、本体は痛くも痒くもない。

そうやって女冒険者を弱らせてから、本体が

■■■するというおぞましい習性を持ってい

るモンスターだ。

――――――――――――――――――――


「生命を持たない分裂体、か……それなら試せるな」

「ウニュう?」

「――メディ、来てくれ」

 

 俺は家でお留守番していたメディを呼び出した。



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