第2話 そんな悲しい目をしないでくれ
メデューサ娘のメディをスキルで美少女化した俺は、またエナドリを飲み干して全回復した。
「――っと、服も着せないとな」
メディは丸裸だ。見た目は15歳ほどの美少女。いつまでもこのままでいさせるのはマズい。俺的にもマズい。反応しちゃう。
「《キャラクターメイク》――」
半透明の画面を操作して、女物の服を検索する。
俺のダンジョンマスターとしてのレベルがまだ低いせいか、選べる服の種類は少ない。
「今はこれで我慢してくれ」
「?」
簡素な、それこそ冒険者風の服装。
……まあ、もともとは女冒険者の外見を変えるためのスキルだからな。そういう系統がデフォルトで用意されてるのも当然だ。
半袖の上着と、下はミニスカート。
エロゲの衣装だけあって少し動くだけでパンツが見えてしまうという、
『防御力? ナニソレ?』
な露出度だが、健康的に発育のいいスタイルのメディにはよく似合っている。
「ふく……! きた……!」
「うん。似合ってるぞ」
「ゴシュジンサマ……アルトさま、いっしょ」
俺の服装は、黒の上下に真紅のマント。
長袖に長ズボンなので服自体はまったく似ていないのだが、『人間の服を着ている』というシチュエーションが嬉しいらしい。
それにしてもメディは。
「(じーーーーっ)」
と、ちょくちょく、金色の瞳で見上げてくる。
「どした?」
「(じーーーーーーっ)」
メデューサの姿でも目を見つめてきていたが、もしかしたら視覚にも変化があったのかもしれない。さっきまでと違う世界をその目で見ているのかも。
「俺の顔、そんなに面白いか?」
「すき」
ストレート。
まあ、恋愛的というより親愛的なニュアンスが強そうだが、悪い気はしないな。
……長らく人間のドロドロな世界に浸っていたせいで、メディの純粋さが心に沁みるぜ。
なんて、今の喜びを噛みしめてから、俺は提案する。
「次は家を作るか」
「?」
ここはダンジョン。出入口は、鬱蒼とした森の中に空いた真っ暗な穴。そこから入っていくと、中の空間は信じられないほど広い。
岩肌が続いたかと思うと、レンガ造りの通路になったり、階段があったり、鍾乳洞に変わったり。太陽光が当たらないのに植物が生えていたり、川があったりと、不思議な世界になっている。
どうも、魔力が作用して空間がねじ曲がっているらしい。
そしてその魔力は、俺の魔力ととても親和性が高い。もともとこの身体は、魔力のたっぷり籠もった瘴気を浴びることで変化したものだから、当然といえば当然だろう。
ダンジョンである以上、いずれ敵からの防衛も考えなければならないが……今はまずは、自分の居住スペースを整えたい。
メディも人間の格好になったわけだし、その辺の地面に寝させるのも心苦しい。
「俺たちが暮らす場所をダンジョン内に作るんだ」
「アルトさま、と、メディの……くらす!」
「俺はダンジョンマスターだし、最奥に陣取るのがセオリーなんだろうけど。でも当分は入口付近を強化したいしな。……この辺にするか」
原作ゲームのシナリオ通りに進むなら、遠くないうちに冒険者が攻め込んでくる。
それに備えて、入口から階段を降りて徒歩3分ほどに拠点を構えることを決める。
人差し指を立てて、カーソルを表示させる。
「広さは……このくらいか」
カーソルを岩肌に合わせて、スワイプ。カーソルのサイズでブロック状に削られた岩が、スイーっと簡単に移動する。削られた部分は、きっちりとした平面だ。
同じ要領で地面も整地。
2LDKのアパートをイメージして、『家』の壁と天井を建築。
「ドアが欲しいけど――そうか、これか。《クリエイト》」
ヒュンッ、と空中にウィンドウが立ち上がる。
「今の俺が作れるものは……おっ、あるある。【樫木のドア】。いいじゃん」
ダンジョンを作成するための《クリエイト》スキル。これも、ダンマスが使える便利な能力だ。
石造の壁に取り付けるのも簡単。カーソルで移動させて、そこに置くだけでオーケー。
「外観が寂しいけどな……」
スピード重視で石のブロックを積んだだけの、見事な豆腐建築。灰色の石材だから、巨大な黒ごま豆腐みたいな見た目だ。
「でもまずは内装が大事だ。入ろう、メディ」
「はいる、ゴシュジンサマ」
ドアを開けて、なんとなく……
「お邪魔しまーす」
「じゃままーす」
俺に追随してくれるメディ、可愛い。
さてこの家を俺たちの快適な
内部には、まずは照明だ。壁にランプを取り付けて明かりを確保。
《クリエイト》にはある程度のものがそろっているので、次々に設置していこう。
水回り。
キッチンに手洗い場、トイレ。浴室には大きめの湯船も。近くの池から水道を引いて、蛇口を設置。キッチンといえば、調理台にかまども。いつかは冷蔵庫なんかも作れるといいんだが。
リビングにはソファとローテーブル。
寝室は――
「おっと」
シングルベッドを1つ置いたところで、俺は気づく。
「寝室は2つ作らないといけなかったな」
「? ふたつ?」
「俺と、メディの」
交互に指を差して示す。
「それぞれが寝るところな」
「?? しんしつ、ねる……」
メディは首をかしげて俺の言葉をゆっくりと理解すると、
「……いっしょ、ちがう?」
寂しそうな声を漏らした。
「そ、そんな悲しい目をしないでくれ! 分かったよ、一緒の寝室にしよう」
「……っ! しよう!」
「そんじゃベッドをもう1つ――」
「っっっ!?!?」
この世の終わりみたいな顔で悲しむメディ。
だからその顔には弱いんだって……!
俺はさっき置いたシングルベッドを《クリエイト》の能力で消滅させてから、
「だ、ダブルベッドで! まくらは2つ! これでどうっ!?」
「っっっっ♪」
メディは目を輝かせ、ダブルベッドベッドの周りをピョンピョンと飛び跳ねた。
……やっべ。
守りたいわこの子。
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