悪堕ち王子の快楽ダンジョン、女冒険者を帰さない ~エロゲの悪役に転生した俺、ひっそりスローライフを送りたいだけなのに美少女たちが集まってくるんですけど!?~
タイフーンの目
1:悪堕ち王子~メデューサ~村娘
第1話 めっちゃメデューサやん
「シャー」
「めっちゃメデューサやん」
突然で申し訳ない。
ここは、とあるダンジョンの深層。
目の前にヘビ娘のモンスターが立っていたので、ついエセ関西弁でツッコんでしまった。
そんな俺は……アルト・レイモンドという名の、もと王子だ。
さらにもっと言うと、前世は日本で働くサラリーマンだった。
知らずに入社した企業がヤバイところで、当然のようにブラックな勤務環境が待っており、よりにもよって勤労感謝の日に休日出勤していたところ、過労で倒れてサヨナラバイバイした人生だった。
んで。
転生してみれば小国の第3王子。当時16歳。けっこうイケメン。
そして周囲の情報から、俺はすぐに気づいた。
〝これって【悪堕ち王子の快楽ダンジョン】か……!?〟
前世で俺が、ブラック勤務のほんのわずかな間にプレイしていた同人ゲームだった。ちなみに18禁。大人だけが楽しめるえっちなゲームってやつだ。
そのシナリオ通りに、事態は進んでいった。
レイモンド王家の兄弟にはロクでもないやつが多く、醜い権力争いが日常だった。転生したばかりの俺はそれに巻き込まれ――
王家を追い出されたばかりか、命まで狙われることになった。
体力も魔力もたいしたことなった
……その逃亡生活は、マジで地獄だった。
人目を避けて逃げなければならず、兄弟からの刺客だけでなく、野犬やら熊やら、モンスターにまで追われて、まともな食物を手に入れられるのは良くて3日に1度といったところ。
そんな生活が2年間も続いたんだ……!
せっかくゲームの世界に転生したのに、プロローグに過ぎないシナリオを、2年も……! こんなところにリアリティはいらなかった!
マジ地獄!!
んで。
何度も死にかけ、そして本当に死の淵にまで追い込まれたとき、俺はここに――洞窟のようなダンジョンにたどり着いた。
なにかに誘われるように俺は、地べたを這って洞窟に入っていった。
――そこで俺は力尽きた。
だがその直後、ダンジョンに溢れる邪悪な瘴気が身体を包み、俺は魔族へと変貌していった。
逃亡生活でついた傷も綺麗さっぱり回復し、ボサボサに伸びていた髪は白髪になり、瞳は赤く、高濃度の魔力を備えた全身は褐色の肌に。
立ち上がった俺にモンスターたちはひざまづき、指先ひとつで迷宮の構造を変えることすらできた。
そう。俺はこのダンジョンのあるじになっていた。
ダンジョンマスターになった俺が最初に思ったこと。というか、吠えた言葉。
「ダンジョン、最高っ!!!!!!」
集まったモンスターたち、突然の絶叫にビクッとしてたなぁ……。
だって仕方ない。
2年間の逃亡生活ですっかり人嫌いになっていた俺にとって、人間が1人もいないこの空間は最高だったんだから。
前世からして人付き合いが好きじゃなかったし、会社勤めだってできればずっと在宅勤務が良かったくらいだ。(弊社はブラックだったので何があっても出勤強制だったけど……)
モンスターは不気味なやつが多いけど、俺のための食事を用意してくれるし、命令すれば俺を1人にもしてくれる。
理不尽に厳しい先輩も、無責任な上司も、陰謀しか考えていない兄弟も……ここにはいない!
俺は、この生活を守ろうと誓った。
それがついこの間……というか一昨日のことだ。
「シャーー」
「おお、悪い悪い」
物思いにふけっていると、目の前のメデューサ娘が「構って構って」とでもいうふうに袖を掴んできた。
メデューサとは、ヘビと人間の女が合わさったようなモンスターだ。下半身は大蛇で、腰から上が半裸の女性。
何よりも特徴的なのは、髪がたくさんのヘビになっていることと、金色に光る瞳。
まさに前世からイメージしていたとおりの『メデューサ』だ。
ただし、頭のヘビはピンク色で、どこかデフォルメされたような、愛嬌のある雰囲気。ほっぺたも何だか柔らかそうにプニっとしている。
もしかしたら、ちょっと幼いのかもしれない。
メデューサの金色眼でにらまれると石になってしまうんだが――ダンマスである俺はなんともない。
どうやらこのメデューサは、それが嬉しいらしくて、
「シャー、シャー」
八重歯を見せて喜んでいる。
「へいへい。ちょっと落ち着けって」
このモンスター娘は背が低い。ちょうどいい高さにあるヘビの頭をポンポンしてやると、気持ち良さそうに目を細くした。
「シャー……♪」
ヘビっていうより、猫というか子猫を相手にしているような気分。
だがこのメデューサ普段は、どうやら他のモンスターに避けられているようだ。躊躇なく接近する俺のことを、逆に驚いて怖がっていたくらいだった。
まあ、見た目からして威圧感が凄いからな。
俺はそんなに気にしないんだが、この深層に棲むモンスターさえビビって近寄らないみたいだ。
見た目……。
「そうだ、ダンジョンマスターならやれるか?」
俺はちょっと思案してから、
「《キャラクターメイク》――」
と声に出してみる。
すると、空中に半透明のウィンドウが浮かんだ。
「おっ、出た!」
これはこのゲームの機能。
キャラクターの外見を変更できる機能だ。
「問題はモンスターにも適用されるかだけど」
本来は、ダンジョンを訪れる女冒険者の見た目を変えるために使われる。
……エロゲだからね。デフォルトをアレンジして、性癖に刺さる外見に変更するわけだ。
ちなみにダンジョンで負けた女冒険者は、モンスターや
そこのフレーバーとしての、《キャラクターメイク》。
髪型や体型、服装なんかも変えられる。
「……試してみてもいいか?」
「シャー?」
「人間みたいな、いや、俺と同族みたいな見た目になってみたいか?」
「シャー♪」
ヘビの尻尾でぴょんぴょんと跳んで喜ぶメデューサ娘。『俺と同じ』というのが琴線に触れたらしい。
「んじゃ、やってみるぞ」
人差し指を立てると、これまた半透明の、巨大な『カーソル』が浮かんだ。そいつをスワイプしてメデューサ娘に合わせてみる。
――ピロンっ
「いけた! キャラメイクいけるな!」
「シャー♪」
まずは下半身。
ヘビの尻尾が、人間の足に。全体的に青かった肌も、つるんとした瑞々しい白い肌に。
「うっ……、な、なるべく見ないようにするからな?」
「シャー?」
この子はいまスッポンポンだ。
腰も、おなかも、プルンと揺れる胸も。
足だけでなく、下腹部もつるつるな人間のそれ。
――そうなんだよ、コレ、もとは18禁ゲームだもんな。
やましい気持ちはないが、視線は逸らす。直視できない!
だってゲームと生身は違うんだ……!
社畜だったから童貞なんだ……!(言い訳)
「ゴホン」
次のキャラメイクは顔だ。
チャームポイントな金色の瞳はそのままに。けれど、尖っていた目は優しく柔らかく。それでいて、好奇心旺盛そうな光を残して。
俺の好みというより、この子のイメージを形にする感じだ。
もう1つ、最大の特徴であるヘビの髪。
申し訳ないが威圧感の強いヘビさんにはログアウトしてもらって、シルエットだけを真似たフワフワのショートカットに。髪色はピンク。
いい感じに、ロリ巨乳な美少女になったぞ。
「よし、でき――――、駄目だッッ!」
「っっ!?」
突然叫んだ俺に、メデューサ娘がビクッとする。
「まだ目の角度が……いや小鼻の大きさ? 眉毛の角度か? うう~ん」
「?」
キャラメイクは沼だ。
やり始めると、顔のパーツのほんの小さな違いすら気になってしまう。
「あごか? 耳の位置……いやいや!」
あああ、やればやるほどドツボにはまる!!
変えては直し、変えては直し……!
「まだだ、まだこの子のイメージを捉えきれてないっ! もっとこう、フンワリとして、それでいてキャルンっとしたような……っ!」
「シャー」
「悪いな、付き合ってもらって。でも、絶対に最高のきみを表現してやるからな!」
「シャー♪」
よし、やるぞ。
やってやるぞ、完璧なキャラメイク……っっ!
- 5時間後 -
「はぁっ、ハアっ……!! こ、これだっ……!」
「シャー」
そこには完璧なメデューサ娘(人間ver.)が立っていた!
この子の性格を100%再現した、究極のキャラメイク!
「ど、どうだ――」
「シャー♪」
俺が喜んでるのを察知したのか、メデューサ娘(人間ver.)が抱きついてきた。
「は、裸……っ!」
15歳くらいの年頃の美少女に抱きつかれて、ガチガチに固まってしまう邪悪なダンジョンマスターさん。つまり俺。
世の中には『モンスター娘はモンスターのままでいるべきだ!』派閥もいて、強い勢力を誇っているのは知っている。その性癖も理解できる。
でも俺は、『やっぱ美少女のほうが嬉しいよね!』派の人間だ!
無垢なのにメデューサの妖しい雰囲気も漂わせている、この美少女が可愛くて仕方ない!
「ゴ、ゴシュジン……サマ……」
「!?」
そうか、人間の声帯になったから。
「ゴシュジンサマ、……スキ……!」
すりすりしてくるメデューサ娘(人間ver.)。
「このままじゃ呼びづらいな。――『メディ』でどうだ?」
「め、でぃ?」
「名前だよ。俺はアルトで、きみはメディ。どう?」
「…………!」
メディは、ぱっと俺から離れると金色の目をキラキラ輝かせて、
「めでぃ……、ゴシュジンサマ、あると……! いっしょ!」
「そうそう。一緒な」
さっきのように頭をポンポンしてやると、
「~~~~っ♪ いっしょ、いっしょ」
いい笑顔。
汚れきった人間とはやっぱり違うぜ。
「ふう、さすがに疲れたな。エナドリでもキメるか」
「……え、などり?」
「そう、これ」
俺は何もない空間から、小瓶を取り出す。中には、ドロッとした緑の液体が入っている。
「それ……かいふく、ポーション、思う」
「いいんだ。俺にとってはエナジードリンク、エナドリなんだ」
「えなどり……おいしい?」
メディの問いに、俺は首を横に振る。
「美味しいとか美味しくないとかじゃないんだ。エナドリはエナドリなんだ」
「?」
「メディも飲むか?」
「めでぃ、のむ……!」
もう1本取りだし、2人そろって腰に手を当て、小瓶をグイッと飲み干す。
「プハーーっ!」
「ぷはーっ!」
キャラクリの疲労も、完・全・回・復っ!
やっぱこれよ!
やっぱりダンジョンとエナドリは最高だな!?!?
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