二一章 樹がいない……
この日、
優等生、と言うわけではないし、勉強熱心というわけでもない。将来のことを真剣に考えてきたわけでもない。学校で行われる進路調査にはいつだって、考えなしに『進学』と書いてきた。
それでも、上位カースト組と言うこともあって学校生活そのものは楽しんでいたし、好きだった。だから、『サボる』という発想はなかった。誰ひとりとしてこれまで、病気や怪我以外で学校を休んだことは一日たりとないのだ。
その
親にはなにも言わず、普段通りに制服を着て家を出たし、学校にもなんの連絡もしていない。
無断欠席。
普段からサボりがちな生徒なら学校側も『またか』の一言ですませるだろう。しかし、優等生ではないとは言え、いままで一度も学校をサボったことのない
学校側も当然、気にかける。家に連絡もする。学校に行っていないことが親にバレる。家に帰れば
それらをすべて承知の上で
――勉強なんかより連れが大事!
それが
――本音を言えば、ちゃんと事情を説明するべきだとは思う。でも、
そう思う。
となれば、
五人は示し合わせて駅に集合した。トイレのなかで制服から私服に着替えた。高校生とバレないよう、なるべくおとなっぽく見える服にするよう事前に決めてある。必然的に全員がとっておきの勝負服、と言うことになる。
着替えを終えて全員、普段とはひと味ちがうおとなびた姿のお披露目会。
「どう? あたしだってその気になれば、おとなの女の魅力たっぷりでしょ?」
「おれだって負けてないぜ。見ろ。この高級ジャケット」
「お子さまが服だけかえても七五三にしか見えないわね。おとなっぽいって言うのは、あたしみたいなのを言うのよ」
あきらが、こちらもファッションモデル気取りでワンピース姿を披露する。
「おとなっぽいと言うなら秀才メガネだろう」
四人とも、普段以上にはしゃいでいた。
――こんなときのための連れだもんね。今日は絶対、
陽気に騒ぐだけさわいで、
「よし、それじゃ行こう!」
まずは遊園地に向かった。平日の午前とあってさすがに人気は少ない。貸し切り気分で絶叫マシンをハシゴした。登って、急降下して、また登っての繰り返し。身も心もたっぷりシェイクし、肚の底から絶叫を出しまくった。
散々ハシゴしたあと、地上に降りる。さすがに脳みそを揺らしすぎて足元もおぼつかない。地面そのものが揺れているような感覚で、全員そろってふらついた足取り。それでも、とにかく、昼食の時間。五人とも、普段の三倍は胃袋に詰め込んだ。
午後からは公園に移動した。カップルに人気の池のボートに飛び乗った。
遊歩道でマラソン大会を開き、ストリートバスケに熱狂した。
たっぷり体を動かしたところでゲームセンターに移動。そこでも、大声を出してはしゃぎまくった。
気がつけばすでに夕方。
もう何曲目だろう。
――うん。やっぱり、みんなで騒ぐのは楽しいよね。
「ねっ、
その言葉に――。
部屋のなかがシン、と、静まり返った。
上辺の陽気さをはぎ取られた、気遣う視線が
「あっ……」
思わず、そんなことを言ってしまうぐらい、
タンブリンを握る手に力がこもる。
身を震わせて泣いていた。
「……
「……ああ」
「おれ、やっぱり、
「奇遇だな。おれもそうするつもりだ」
それより早く、
『明日の朝、校舎の屋上で』
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