二〇章 最低の嘘
その日の放課後。
ふたりきり……ではない。
「ごめんねえ。あたし、やっぱり、
そう言って『バイバイ』とばかりに片手をヒラヒラ振ってみせる。
そんな
「もともと、
いかにも軽薄そうな笑顔といい、人を見下したような態度といい、どこからどう見ても頭も軽ければ尻も軽い性悪のギャル。男から見れば殴りたくなるような、そんな女そのものだった。しかし――。
事情を知っている
そう思わせるような態度だった。
「だからね、あんたとはもうお別れってこと。なにか勘違いさせちゃったようだけどしょせん、あんたみたいな陰キャとあたしたちちじゃあ住む世界がちがうってことで。もう、あたしたちによりつかないでね。下位カーストさん」
バイバイ、と、見た目ばかりは明るく手を振ってみせる。その態度に――。
「わかった」
それきり、なにも言わずに身をひるがえした。無言のまま、屋上を去って行く。
「まっ……!」
その腕を
――追いかけないで。黙っていて。
見上げる瞳がそう訴えてかけている。
その瞳の
「……
それ以上、声が出てこない。互いに目配せしあう。
ふたりとも、かける言葉が見つからない。いや、正確にはかけるべき言葉はわかっている。言うべきこともわかっている。だけど、その言葉を言う勇気がない。お互いに、
――あなたが言ってよ。
と、目配せで訴えあう。
ふたりが言ってほしいことを切り出したのは
遠慮がちに、それでも、はっきりと口にした。
「なあ、
そこでいったん、言葉を切った。ためらいの表情が浮かんだ。それでも、やはり言うべきだと思いきり、言葉をつないだ。
「
「そうだよ、
「あんなに
「そうよ。これじゃあ、
「男の立場からしてもこんな小芝居はされたくないな。一生、傷を負って生きることになる」
あきらと
そんなまわりの真剣さに対して
「や、やだなあ。みんな、なにをマジになってんの? あたしの好みはたくましいスポーツマンだって知ってるでしょ。あんな陰キャのボッチなんて、最初から……」
「あたしたちに、うそは言わないで!」
「あたしたち、小学校時代からの付き合いでしょ。あたしたちの前では正直になってよ」
「そうよ、
「おれも同感だ」
言われて
「お、おれ、やっぱり、
「やめてっ!」
その叫びの必死さに全員が硬直する。
「
「邪魔なんて……そりゃあ、将来のために行動するのは立派だけど、だったら、
「そうよ。ここで身を引く必要なんてないじゃない」
「あたしは将来のことなんて一度だって考えたことない! 親のお金でなんとなく学校に通って、遊びまわってただけ。農業のことだってなにも知らない。世界のことなんてなにもわからない。そんなあたしじゃ
「……
――あたしがいなければ、
そう言われて協力したけれど、こうして実際に見てみるとやはり、悲しい。いたたまれない。
こんなことはまちがっている!
そう思う。
突然、
「よしっ! 今日は久しぶりにみんなでカラオケに行こう! とことん騒ぐぞおっ!」
天を仰いでそう叫ぶ瞳からは――。
一筋の涙が流れていた。
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