一七章 海と水着と将来と
終業式の日がやってきた。
お決まりのお偉方の、お決まりの
待ちにまった夏休み。特に
――
と、すでにやる気満々である。
「よし、海に行こう!」
そんな
「なんと言っても、
と、
もともと、
わざわざ『海に行こう!』などと宣言するまでもなく『今年はいつ、行く?』ですんでいた話である。それをわざわざ宣言したのは
――海!
そう思うだけで
――
まだ見ぬ筋肉への憧れに、思わず頬の赤らむ
「あ、でも……」
と、妄想から目を覚まし、現実に帰ってきた。
「
作物だけならまだしも、ニワトリもいる。一日だって世話を休むわけにはいかないはずだ。
「日帰りなら大丈夫。農家でもどこかに出かけられるよう、徹底的に省力化を図ってきたからね。ニワトリたちも放っておけば勝手に、その辺の草やら虫やらを食べてるから、朝に食事をやってさえおけば、あとは放っておいてもかまわないし」
「それじゃ、決まりね!」
と、
――これは、気合い入れて水着、選ばないと。
燃える炎を心に宿し、そう決意する
そして、その日やってきた。
陽光降りそそぐ夏の浜辺で
三人とも上位カーストだけあって顔もいいが、スタイルもいい。そんな三人がそれぞれに大胆なビキニを着て目の前に立っているのだ。女子との交際経験ひとつない生真面目系男子には刺激が強すぎる。ともすれば胸の谷間に吸い込まれそうな視線を無理やりそらし、『あ、ああ……』とかなんとか口にする。頬が赤くなっているのは日に焼けたせいではない。
そんな
「んん~?」
と、
「その態度はいけないなあ。彼氏なら彼女にはちゃんと言うこといわないと」
「そうそう。それが礼儀ってものよ」
いかに交際経験のない朴念仁でも、この場で言うべきことぐらいは知っている。
「に、似合ってる。……かわいいよ」
頬を真っ赤に染めて、消え入りそうな声でようやく告げる。
キャ~、と、歓声をあげて三人娘は跳びはねる。
ようやく、どうにか、礼儀を果たした
なにはともあれ、儀式が終わり、夏を
はじめてのお披露目となる
水着自体はごく普通の男子用の海パンだが、特筆すべきはその肉体。日々の畑仕事とパン作りで鍛えられた筋肉は、
「うわあっ。
「ほんと。これなら、筋肉フェチの
「誰が筋肉フェチよ!」
「特に背筋がすごいわ。これなら、ものすごいパンチ、打てそう」
「……ま、まあ、クワを振るったり、薪割りしたり、餅つきしたりしてるから。自然とパンチ力を鍛える結果にはなってる……かな」
「なるほどねえ。
と、
「こら! あんたたちは
と、眉を吊りあげた表情がそう言っている。
「え~。
「いいじゃない、ちょっとさわるぐらい。減るもんじゃなし」
「ダメったらダメ!」
夏の浜辺でキャイキャイやりはじめる三人だった。その間――。
連れの女子たちから完全無視された
それはともかく、夏である。
夏の海である。
楽しみはたのしみでしっかり
泳いだり、ビーチバレーしたり、
「どうだ!」
と、ばかりの自慢顔である。
かくして、
遅めの昼食に
「海なんて、小学生のとき以来だな」
「中学のときとかは来なかったの?」
「ああ。畑仕事が優先だったし、一緒に来るような仲間もいなかったからね」
――そんなに畑仕事が大事なのに、あたしとは海に来てくれたんだ。
そのことがとにかく嬉しい
「じゃあさ。今年はいっぱい来ようよ。八月いっぱいあるんだから、まだまだ来れるしさ」
「あ、それが……」
と、
「八月からはドイツに行くんだ」
「ドイツに⁉」
「ああ。前からウォルフに誘われていてね。ネットや本で調べてはいるけど実際に海外の取り組みを見たことはないから。この機会に少しでも他の国の取り組みを見てくるつもりなんだ」
「そ、そうなんだ……」
てっきり、夏休みの間中、思いっきりイチャイチャできると思っていたのに当てが外れた。とは言え――。
――遊びに行くんじゃないもんね。将来のために勉強に行くんだから。ワガママ言って邪魔しちゃダメだよね。あ、でも……。
「それなら、畑はどうするの? なんなら、あたしがかわりに見てようか?」
そうすれば、
しかし、
「それは駄目だ。君はまだ、畑を任せられるほどくわしくない」
「うっ……」
あまりにも正論なのでぐうの音も出ない。
「畑のことは知り合いに頼んである。まあ、一週間程度の予定だから大したことはないし」
「そ、そうなんだ……」
――八月いっぱい、行っているわけじゃないんだ。
それなら、帰ってきてから一緒に夏を楽しむ時間はまだまだある。
そう思い、ホッとする
八月が来て、
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