一五章 お前ら、場所をわきまえろ!
「おはよう、
月曜の朝の校門前。
大勢の生徒が門に向かっていくそのなかで、
その密着振り、風紀指導の教員でなくても『場所をわきまえろ!』と怒鳴りたくようなものだった。
月曜の朝。
一週間の停学処分は昨日の時点で解けていた。正確には
学校側と交渉しようにも日曜と言うことでもちろん、学校には誰もいない。そこで、教師の家に押しかけた。担任はもちろん、学級主任に風紀指導の教員、さらには教頭から校長にいたるまで。
「それでダメなら理事長のところに行って
「いや、そこまでしてくれなくてもいいんだけど……」
当の
もともと、『大学までは卒業する』という親との約束で学校に通っている身。学校生活に対してさしたる興味があるわけでもない。退学というならともかく、停学処分ぐらいでは気にもならない。
……まあ、停学処分を知った親からはこっぴどく叱られるわ、涙ながらに嘆かれるわでさんざんな目にはあったけれど。
――いまほど親元をはなれてひとり暮らししていることを、良かったと思ったことはない。
心からそう思い、
そんなわけだから別に、無理に停学処分を解いてもらう必要はなかったのだ。むしろ、一週間、学校に行かなくていいとあってその時間を世界の農業技術の学習に当てるつもりだった。
なので、
それでも、
日曜なので家にいる教師ばかりではなく、出かけている場合もあった。その場合は行き先を調べてそこまで押しかけた。
教師たちにしてみればせっかくの日曜に押しかけられて迷惑この上なかったにちがいない。とは言え、仮にも教師という立場では自分のもとにやってきた生徒を追い返すわけにもいかない。とにかく、会うだけは会うしかない。
そうして、強引に面会を果たした
「悪いのはあたしたちなんです。
自分たちが罰ゲームで嘘告をしたのがはじまりであること、殴られて当然と納得していること、すでに本人同士で和解済みであることなどを説明し、頭をさげ、頼み込んだ。
担任、主任、風紀指導、教頭、そして校長と、それぞれに繰り返した。
別に、
――ここで断ったら『わかってくれないおとな』として悪い評判を流されかねない。そんなことになったら生徒たちに嫌われる。そうなっては、なにかと仕事がやりづらくなる。
その程度のことは教師であっても考える。
結局、
もちろん、そこには『せっかくの日曜なのに、いつまでもつきまとわれてはたまらない』という思いもあったにちがいないのだが。
まあ、相手の思惑などどうでもいいこと。
「やったな、
嬉しそうに言う
「ううん。まだよ。まだ肝心なことが残ってるわ」
「肝心なこと?」
「
「それだけはよせ!」
と、
「……もう死にたい」
と、呟きながら、顔面を両手で覆っていた。
そんな
なんとも言えない表情で両側からはさみこみ、肩をポンポンと叩いて慰める
とにもかくにも
「良い娘さんじゃないか。泣かしたら承知しないぞ」
「これで、我が家も安泰ね」
と、両親から完全に
そして、月曜。
いつも通りに登校した
「……お、おはよう」
とにかく、昨日の一件以来、
チラリ、と、
自分を見上げる幸せそのもののその笑顔。その笑顔だけでもう恥ずかしくていたたまれない。
「……あの、そんなにくっつかなくてもいいと思うんだけど」
「いいじゃない。あたしたち、れっきとした恋人同士なんだから」
「いや、それはそうなんだけど……」
――そうなんだけど。
その一言を言うだけでも
――問題はそこじゃないと言うか……。
とは言え、朝っぱらから、それも学校で、男特有の生理現象など起こしていられない。そんな姿を見られたら、まわりからなんと言われることか……。
いくらスクールカーストに興味のない
――え、ええと、SRIの特徴は、田んぼにずっと水を張ることなく定期的に水を干し、根を空気にさらすことで根を丈夫に育て、それによって茎が良く育ち、米の増収につながることにあり……。
頭のなかで農業技術をお経のごとくに唱え、煩悩を追い払わなくてはならない
授業がはじまってからも
むしろ、『クラスメイトが見ている前だからこそ、はっきりさせておかなくちゃ!』とばかりにますます勢いこんで来る。
休み時間のたびにやってくるし、昼休みともなればみんなの前で堂々のおふたりさまランチタイム。それはもう、あたり一面に『ハート』マークの結界が築かれているようなありさまで、誰も近づけない雰囲気。そのあまりのラブラブ振りにまわりもドン引きしている。
しかし、
さすがにたまりかねて
「
「……う~ん。さすがに、あそこまではいままではなかったかなあ」
「それだけ本気ってことよ。あんなに愛されて幸せじゃない」
「いや、程度ってものはあると思うし……」
「言っておくけど、
汗まみれになる
「モテる男はつらいなあ」
と、
そして、放課後。
「……な、なあ、
「なに言ってるの。ダメよ、これぐらいしなきゃ。例の件以来、女子の間で
「いや、おれに女子がよってくるとか、あり得ないから」
「そんなことない!
そう断言し、ますますくっつく
――だから、その胸が……。
見た目スリムな
またしても、頭のなかでお経よろしく農業技術を唱えつづけなくてはならない
ともかく、ふたりはくっついたまま帰って行く。行き先はもちろん、
そんなふたりを見て
「いやあ。まさか、
「さすがに以外だったわ」
などと、呑気なことを言っている。
そんなふたりに対して
「な、なあ。
「なに?」
「あのふたりはあんなだしさ。おれたちも……」
その言葉に――。
「ば~か」
その一言を残し、去っていく。
哀れ、男子ふたりはたった一言で撃沈されたのだった。
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