一四章 今度は嘘じゃないです
そして、翌日の日曜日。
「これは、あたしがやらなきゃいけないことだから。
そう言って。
もちろん、そう言われたからと言って、
一見、いつもとかわりなさそうな様子。だけど、その表情ははっきりと怒りを秘めたものだった。ほんの数日のこととは言え、
――いつもの、作物の世話をしているときの
ゴクリ、と、
ドクン、と、心臓が鳴った。
足がすくむ。
脂汗がにじむ。
吐け気がする。
それぐらい、ひどい緊張に襲われた。
帰りたい。
このまま回れ右してすぐ帰りたい。
それができたら、どんなに楽だろう。でも、そのあとに来るものは……。
――もう一度、
その思いを胸に己を奮い立たせ、
「
震えを帯びた、それでも、確固たる力を込めた声だった。
そこにいるはずのない人間を見た。
まさに、そのときの表情だった。
そのなかで
「
その言葉に、
「おれもだ」
そう言いきる
そんな連れたちに見守られているとは知らず、
「ごめんなさい!」
耳をつんざくような大声だった。
「あたし、
そう言ってから頭をあげた。
「でも、信じて! 最初の頃はたしかに『彼女のフリ』してたけど、でも、そんなのすぐに忘れてた。罰ゲームだってことも、嘘告だってことも全部忘れて、
だから、そんな
「まず……」
そう言った。
ひどく静かな声だった。
――殴られる!
――でも、それでもいい。怒られて、殴られて、それで、もう一度チャンスをもらえるならかまわない。
両目をギュッと閉じ、奥歯を噛みしめた。顔を殴られたときのための準備だった。だが――。
「見え見えだぞ。そんなところで隠れている気になってないで出てこい」
「えっ?」
「
名前を呼ばれて四人はさすがに観念したようだ。バツの悪そうな表情でやってくる。
「……ごめん。やっぱり、放っておけなくて」
「
「それに、お前だって女を殴りたくはないだろう? かわりにおれたちを殴ってくれ。気がすむまで、好きなだけぶちのめしてくれていい。だから、
そんなふたりを
「
心臓をバクバク言わせながら見守る女子三人の前で――。
「すまなかった」
「な、なんで、お前があやまるんだよ⁉」
思わぬ展開に
「悪いのはおれたちだ。人ひとりの心をもてあそんだんだからな。殴られたって仕方がない。お前が謝る必要はない」
「そんな理由で殴ったんなら謝ったりしない。おれがお前たちを殴ったのは……ただの焼きもちだ」
「焼きもち?」
チラリ、と、
「……罰ゲームの期間は十日。そのことは知っていた。だから、あの日、おれはもう
「それって……」
頭をさげた。
「……ごめん。おれは君を信じられなかった。君がどんなにおれに好意を示してくれても『これは演技なんだ。罰ゲームで仕方なくやっていることなんだ。期間が過ぎればおれのことなんて気にしなくなるんだ』って、そう自分に言い聞かせていた」
「
「君と過ごした十日間、楽しかった。君はかわいいし、明るいし、おれの知らない世界のことを教えてくれた。おれはその、いままで女の子とまともに付き合ったことなんてなかったから……嬉しかった。だからこそ『勘違いするな、
だから、せいぜい演技に付き合って、期間が過ぎたらこっちから冷たくあしらってやろう。そう思っていた。でも……いざ、君にもう会えないとなるとさびしかったし、悲しかった。そのことにひどく苛々した。そして、
その言葉に――。
「でも、それでも、おれは君に告白する勇気なんてなかった。おれだって、学校内での自分の立ち位置ぐらいは知っている。君みたいな人気者がおれを相手にするはずないと思ってたから。告白したって相手にされるわけない、とんだ勘違い野郎だって迷惑がられるだけだって。でも、君にその気があるのなら……」
そして、はっきりと告げた。
「
その言葉に――。
「……はい。よろしくお願いします」
その
そんなふたりのまわりで
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