一〇章 ギャルの出番!
今日もきょうとて、
世話をするさなか、畑のなかを区切るように植えられている背の高い草が気になった。
「ねえ。この背の高い草はなんなの? ズラッと並んで生えてるけど」
「ああ。それはオーツ麦」
「オーツ麦?」
「オートミールの原料って言えばわかるか?」
「ああ、それならわかる。うちって朝は毎日、オートミールなのよね」
オートミールはご飯やパンより栄養バランスが良くて、美容と健康に良いのよ。
――美容と健康に良い。
口ではそう言っているがその実、オートミールならご飯のように炊く必要もなければ、パンのように焼く必要もないので楽でいい! というのがその理由。そのことは、
「虫除け、風除けのために一定間隔で生やしているんだ」
「虫除け?」
「害虫が畑のなかを自由に行き来出来ないようにね。虫って言うのは意外と高いところを飛べないから、背の高い草を生やしておくと、それが邪魔になって通れなくなるんだ」
「へえ、そうなんだ」
そんなことははじめて聞いた。
「それに、オーツ麦とか、ソルゴーとかを植えておくとそこにアブラムシが多くつく。そのアブラムシを食べるためにテントウムシやその他の虫たちが集まる。この虫たちが作物についたアブラムシも食べてくれる。オーツ麦を植えておくことで他の作物が害虫被害から守られるというわけ」
「へえ。そう聞くとなんかすごいね」
「ああ。自然の仕組みはよく出来ている。その他にもまわりの植物を元気づけるハーブとか、その逆に他の植物を枯らしてしまう成分を出す植物とかもあるし、組み合わせによって成長がよくなったり、悪くなったりする。本当にいろいろだよ。最近はその組み合わせをうまく生かして、無農薬でも害虫被害のない作物を作ろうっていう取り組みも広がっている。植物同士の相性とか、虫との関係とか、土壌に与える影響とか、まだまだわからないことだらけだけど……そんなことを調べたり、学んだりするだけでもすごく楽しいよ」
「なるほどねえ」
と、
「あの、ウォルフって言う人ともそういう話するわけ?」
「しょっちゅうだよ。とにかくいまは農業にとって厳しい時代だ。工夫にくふうを重ねて少しでも手間と費用を減らし、収入を増やさないと生き残れない。だから、世界中の農家がそのために知恵を絞り、工夫を凝らし、新しい方法を生み出している。まるで、SFの世界さ。それらを学び、試し、話し合い、また試す。それは本当に楽しいよ」
「そうなんだ。やっぱり、
外国人のおとなを相手に同じ道について語り合う。なんだか、憧れる。
「でも、いいなあ。オートミールかあ。あたし、オートミール風呂ってやってみたいんだよねえ。オートミールからミルクが染み出してお姫さまの肌になるって言うから。でも、さすがに食べ物をお風呂に入れるのはもったいないってママが許してくれないのよね。まあ、実際、お風呂に入れるには高いしね」
そこまで言ってから、さらにつづけた。
「ねえ。オートミールが採れたらわけてくれない? 畑の手伝いはするからさ」
「それはいいけど……」
「いいけど?」
「いや、畑って実は美容製品に使えるものが多くあるんだよ。オートミールもそうだけど、米ヌカとか、ハーブとか。特に、ローズマリーの化粧水は『ハンガリーウォーター』として名を残しているし……」
その昔、ローズマリーを主体にして作った化粧水は歳老いたハンガリー女王エリザベスの手足のしびれを治し、見事に若さと美しさを取り戻したという。その故事に習って『ハンガリーウォーター』として名前が残された。
「あ、知ってる! ローズマリーって『若さを保つハーブ』って言われてるんだよね。ヘアリンスにもいいって言うし」
「ああ。それに、ヨーロッパでは花嫁を悪魔から守るために、結婚式では必ずローズマリーの枝を身につける風習があるそうだ」
いまもやっているかどうかまでは知らないけど。
と、
「へえ、そんな風習があるんだ。それは知らなかったなあ」
でも、なんだかロマンチック。あたしも結婚式のときはローズマリーの枝を飾ろうかなあ。
――なにしろ、あたしってかわいいもんね。こんなかわいいお嫁さんなら、そりゃあ悪魔だってよってくるってもんでしょ。
と、揺るがぬ自信に胸をそらし、ひとりニマニマする
「……まあ、とにかく、畑には食品だけではなく、美容と健康のための品も数多くあると言うことだ。だから、美容製品も売り出したいと思っているんだ。食品として売るよりその方が高く売れるから。でも、さすがに、おれひとりじゃそこまで手がまわらないし……」
その言葉に――。
ピン! と、
「それ、あたしがやるわ!」
「君が?」
「そう! 美容にはうるさいんだから。そっち方面はあたしに任せて!」
――そうよ。美容に関してはあたしの方がずっとくわしいもんね。この点に関しては絶対、
自分にも
そのことを発見出来て
一方、そう言われた
「ああ、そうだな。そうなったら……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます