一章 はじまりの罰ゲーム
「よおーし、
公立
図書室という
七月初めの初夏の日差しが降りそそぐ午後のことだった。
初夏と言ってもなにぶんいまの時代。外に出れば一昔前の基準で言えば『夏真っ盛りも真っ青』という異常な暑さにうだることになる。しかし、図書室内はきちんと冷房が効いているので不快さはない。
そんななか、カードゲームでひとり負けした
「ダ、ダメだよ、そんなの! 嘘告なんて相手に悪いじゃない」
「なに言ってるの。負けたんだから罰ゲームは当たり前じゃない」と、あきら。
「そうだぜ、
「大体、お前だって承知しただろう」と、
顔面偏差値とスタイルの良さではどこに行ってもトップクラスを誇ってきた
その五人組は人気のない図書室で罰ゲームを賭けてカートで勝負していた。そして、めでたく
罰ゲームの内容は男子であれば他の生徒の面前で女教師に告白して玉砕、女子であればクラスの男子に嘘告して十日間、付き合うというものだった。
――嘘告なんかしたら相手に悪い。
その思いもたしかに多少は、ほんの少しは、ほんのりとだがあったりはする。しかし、それよりなにより、下手な相手と関わって自分のカーストを落としたくない。
カーストというものは上にいるものは簡単に落とされるが、下にいるものが上にあがることは絶対に許されない。下位カーストの生徒が
もし、一度でも下位カーストに入れられた生徒が上位カーストに入ろうと思えば、自分のことを誰も知らない新天地に行って華々しいデビューを果たすしか道はない。上下がきっちり決まっていて、その秩序を覆すことは許されない。だからこそ、カーストなのだ。
かつての仲間からは見下されるし、もとからの下位カースト連中からは『いままでの恨み!』とばかりに標的にされる。
とは言え――。
――最近、勝ちまくってたから調子に乗ったわあ。こんなことならせめて別の罰ゲームにしとけばよかった。
そう思い、後悔したが『後の祭り』とはまさにこのこと。
そもそも、罰ゲームに反対したりしたら『ノリが悪い』と言われてハブられてしまう。承知しないわけには行かない。
「……大体、誰に告白しろって言うのよ?」
「そうね。
「げっ! よりによって、あの陰キャのボッチ!」
「いいじゃん、いいじゃん。
と、あきら。完全に面白がっている。
「お、同じクラスって……本当にただ同じクラスだったってだけで口を効いたこともほとんどないし……」
それも、クラスの行事などで事務連絡をしたことがあると言うだけのこと。プライヴェートな話をしたことなど一度もない。と言うか、
なにしろ、
「クラスの連中も、半分ぐらいは名前も知らないんじゃないか?」
と、
「名前ぐらいはさすがにみんな知っているだろう。出席のときに呼ばれるんだからな」
と、いかにも優等生っぽくメガネをいじりながら言ったのは
「名前より、声を知らないやつの方が多いと思うぞ」
そう言うのが
そんな
決して上位カーストではないが、かと言って下位カーストというわけでもない。むしろ、カースト外の存在、と言った方がいいだろう。
――
う~む、と、
いくら罰ゲームでも下位カースト相手の嘘告なんて断固拒否。例え『振り』であっても付き合うような真似をするのはリスクが大きすぎる。だけど、カースト外の存在である
――それならまあ、悪くないかな?
そう思う。
どのみち、罰ゲームには従わなくてはならないのだし、それなら他の正真正銘の陰キャを指名されるよりはましだ。
もっとも、
「でも、やっぱりダメだよ。
「いいじゃないか。どうせ、あいつは女子と付き合ったことなんてないだろうし、思い出を作ってやれよ」
と、
「そうそう。高校三年間、一度も女子と付き合ったことなし、なんてさびしすぎるからな。一度ぐらい、いい夢、見せてやれって」
「
と、あきらも言った。
「
刺激になるし、成長できるってもんよ。
と、自分もいつも同じメンバーとしか付き合わないのにそう言ってのけるあきらだった。
「はい、それじゃ決定~。明日、
満場一致! と、ばかりに
――まあいいか。ボッチの陰キャにかわいい女の子との交際を経験させてあげるのも『
しかし、
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