嘘告からはじまるカップルスローライフ
藍条森也
プロローグ 小悪魔は報いを受ける(前半)
「ふふ、ふふふふ」
校則ギリギリの短いスカートを
それが、付き合いはじめたばかりの彼氏、
――なにより、おいしいご飯、作ってくれるもんね。
それを思い出すと勝手に花咲く笑顔がますますあふれる。朝食はしっかり食べてきたというのに、途端にお腹が空いて腹の虫が大きく鳴りそう。ついでに、よだれもこぼれそう。そのことに気付いて、
――いけない、いけない。さすがに公衆の面前でよだれをたらすなんて女子としてあってはいけないことよね。
と、
なにしろ、通勤通学の時間帯の通学路。まわりは人であふれている。もちろん、同じ学校に通う顔見知りもウヨウヨいる。そんなところでひとり、ニヤけながらよだれをたらして走っている……などという姿を見られては、なにを言われるかわからない。
中学校の頃からのスクールカースト上位キャラ。それだけに、上位キャラがいかに簡単に突き落とされ、下位カーストに押し込められるかはよく知っている。そして、元上位カーストキャラの下位カースト暮らしがいかに惨めなものなのかも……。
――でも……。
と、
――
そう思うと
まさに、一からの手作り。先祖代々の畑で丹精込めて育てた作物から作られるサンドイッチの味はまさに絶品。工場製の大量生産品とはわけがちがう。
そもそも、ボリュームからしてちがう。具材こそほとんどが野菜だけれど、男子高校生らしい大ボリューム。絶妙の焼き色に香ばしい香りただようバゲットにトマト、キュウリ、レタス、その他ハーブ類をこれでもかとばかりに詰め込んだ野菜サンド。
畑で飼っているニワトリがその日の朝に産んだ卵で作った目玉焼きとカリカリに焼いたベーコン、それに、やっぱり、各種ハーブをはさんんだベーコンエッグサンド。
同じくカリカリに焼いたベーコンに分厚くスライスしたトマト、何層にも重なったレタスをはさんだボリューム感あふれるBLTサンド……。
どれもが新鮮で瑞々しく、しかも、はしたないぐらいに大きく口を開けなければ食べられないほどの大ボリューム。それはもう、高級ホテルのモーニングのCMとしてテレビに出てきそうな代物ばかり。
食べ応えがちがうし、味わいもちがう。女子とは言え食べ盛りの高校生。
――さあ、今日はどんなサンドイッチを作ってきてくれたかなあ。今日は、どんなことをするんだろう?
小学生の頃から典型的な陽キャで人気者、中学ではバリバリのギャル。高校に入れば不動のカースト上位。そんな
なにしろ、高校二年にして世界の農家とつながり、新しい農業を切り開こうとしている
――今日は、どんなことを見せてくれるんだろう。
そう思うと心が弾む。
息を弾ませながら走りつづける。校門前に来たところで愛しの彼を発見した。と言っても、後ろ姿が見えただけ。同じように校門に向かうその他大勢と同じ、なんら代わり映えのしない学生服姿。背の高さや、体格に特徴があるわけでもない。どこにでもいる中肉中背の後ろ姿。もちろん、髪型だってごくごく平凡。普通なら、後ろ姿を見ただけではその他大勢と区別などつきはしない。
でも、そこがわかってしまうのが恋する乙女の直感。愛しい彼氏を嗅ぎ分ける超能力と言うものだ。
「おはよう、
その声に
「今日は……」
どうするの?
そう言いかけた
「なんの用だ?」
――なんの用だ?
それが、
彼氏が彼女に対して言う言葉では絶対になかった。
「な、なんの用って……」
「おれには、もう用はないはずだろう」
「な、なに言ってるのよ、
――付き合ってるんじゃない。
「昨日で十日目だ。君の罰ゲームの期間は終わった。もうおれに用はないはずだ」
ただそれだけを言って――。
想像もしなかった彼氏の拒絶。ショックのあまり、
まわりにいる
『なにかあったのか?』と、好奇と気遣いの目で見られていることにも気がつかない。
愛しい彼氏に突き放されて、
そして、
――忘れてた。あたし……みんなとの罰ゲームで
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