第八首「違和感よ 女社長と いうのなら 男社長と なぜいわぬのか」
会社には社長の色がよく出る。
それはこの工場も例外ではない。
研究
対して事務
そしてその塵の山岳地帯の盆地のあたりで、当の社長は機械いじりに没頭していた。
「なあ和泉」
「何? 今納期が迫ってて忙しいんだけど。大した用じゃないなら後にしてくんない」
和泉は汗をぬぐいつつこちらを向く。頬に油がつき少し黒く染まった。
和泉はこの工場の経営もしつつ、こうして自ら機械の整備も行っている。
昔はとにかく化学と機械が大好きな女の子という印象だったのが、十七歳の誕生日に会社を立ちあげ、知らないうちに気鋭の女社長になっていた。
二足のわらじで常に忙しそうな和泉だが、俺はそんな彼女に三足目も履いてもらっていた。お察しの通りうちの
しかも子供の頃からの腐れ縁にかこつけて、他の
ただでさえ迷惑をかけっぱなしなので作業に集中してもらいたい気持ちもあったが、それでも俺は話を続けた。
「いやそれが大した用なんだ」
「何よ」
「俺たちのこれからについてだ」
「はあ!? いきなり何いってんのいやそういうのはまだ早いっていうかまだ会社だって軌道に乗ってないしやっぱりそういうところをちゃんと固めないといけないしさでもまああんたがそこまでいうなら考えてあげないこともないけど」
「何をいってるんだ」
「何を……って、あんたがこれからについて話そうっていうから……」
「そうそう。俺たち
「
「うん、
「だったら」
「ん」
和泉の声が急に小さくなる。それを聞きとろうと俺は和泉に近づいた。
腹に衝撃が走る。和泉の拳がみぞおちをえぐる。さらに
暴力の満漢全席だ。
「それを先にいえ!」
「……一体何だと思ったんだ」
「う、うるさい! 王水かけるわよ!」
さらに踏まれる。
既に虫の息だが声を振りしぼる。
「……今度集まった時、
「あんた……」
見下ろされている位置関係に、軽蔑の視線が加わった。
「それ、自分が忘れたからもっかい確認したいだけでしょ」
俺は目を反らして口笛を吹いた。曲は『きらきら星』だ。
「図星みたいね」
ばれた。
「前に説明してあげたでしょ」
「人間は忘却する生き物なのだ」
「わかったわよ……時間もないし、これが最後だからね!」
「頼む」
和泉は声の調子を整えるように一つ咳ばらいをした。
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