第42話 下書きを書くと蔓が増やせる

 作品の取りかかり方って人それぞれ手法は千差万別だと思うんですよ。私みたいに、その時々で変わって、やり方が決まってるわけじゃない作者もいますし。


 プロットを作ってから本番書き始める方と、ぶっつけ本番でいきなり書き始める方とでだいたい二分されますよね。プロット作ってからの人でも色々種類分けようと思えば分けられると思います。


 登場人物の履歴書を作るという話も、履歴書作ってそれがちゃんと埋められるか確認しといた方がいいよということで、ここがキモになってますから、ただ書けばいいって意味でもなかったりしますよね。


 そもそもストーリー決まってないと何人出てくるのかすら解らんわけですし。



  ストーリーは、例えば「無敵状態になったから仇敵をボコすぜ!」だったとしますよ。根幹はこれだけしか作らず、いきなり書き始めますよ。大丈夫、書けます。


 無敵主人公が仇敵をボコる話、とだけ決めるってコトですけど、「主人公が何をする話」にするかだけ、これだけです、ゼロの時点で考えるのって。



 それから次に、無敵状態ってどんな無敵にしようかな、と考えますよ、まず。

よし、「死なないカラダ」で行こう、と思いますよ。すぐ既存作品とか頭に浮かんできますよ、デッドプールとか幾つか出てきます。それはサクッと無視しますよ。異世界なろう系はどんだけ被っても怒られませんから。


 次はその無敵はどうして手に入ったことにするか考えますよ、神様でいいじゃんと思うけど芸が無いから別のを考えますよ、怪しい薬を飲んで不死身になったでいこうと決めますよ、デップーに似てるけど拷問じゃないから大丈夫ってコトにしますよ。


 ここでヒラメキますよ、「そうだ、流行りの追放モノ入れよう。」


 仲間の冒険者たちに騙されてダンジョンの中で得体の知れない薬を飲まされ、のたうち回ってるのをそのまま放置で棄てられちゃったことにしますよ。復讐モノいいですね。コトのついでなんでしっかり映像流れてたコトにしますよ、配信モノですね。放置してった連中は後で観ますよ、きっと面白いことになりますね。


 主人公は人格まで変わっちゃって「ぶっ殺してやる、」でダンジョン最深部から舞い戻ってきますよね。なんだかんだあって最終的に復讐成就しておしまい、と。


 こういう感じでまぁ、ストーリーラインだけなら30分あれば一本上がります。




 で、このザックリした、漫画でいったら絵コンテにすらなってない便所のラクガキ状態の殴り書きが、これをベースにちゃんと文章で書き記していったら下書きとか第一稿とかになるんですけどね、漫画だったら絵コンテですね、コマ割りとかをね、こんな感じに、みたいなアタリを付けた状態のヤツに相当するです。


 でもそれをやってくうちにですね、「いや、これはこういう設定入れた方が楽しくね?」なんていうヒラメキがね、作業時間が掛かれば掛かるほど、幾らでも噴きだしてくるわけですよ。


「そうだ、流行りの追放モノを――」とか言ってる間に「配信なんてのもあったな、」なんて浮かんできて、それをそのままブチ込むような感じでストーリーが野太くなっていくわけです。


 これ、ラクガキに付け足す程度のうちはまだ簡単なんですが、下書きやってる途中で思いついて「そうだ、これも入れちまえー、」とかってなったら大変なんですよな。


 先に書いていた文章と食い違うとか出てくるじゃないですかー、やだー。


 なので後から読み返して、付け足し設定と矛盾する箇所をぜんぶ書き直して回るわけですよ。これが私が何十回も元原稿を読み返す理由になってたりしますが。


 これね、キャラとかでも起きるんですよ。ラクガキの時はただのNPCで「ここが始まりの村だよ、」とか言う役の人、そんなん中身なんかないカラッポだったのが、ヒラメキで「そうだ―――――」とか思っちゃって履歴書必要なサブキャラポジションに格上げとかがね、起きるんですよ。


 そしたら当然ですが、また冒頭から読み返して矛盾点を潰して回るわけです。


 で、読み返しの最中に、設定に矛盾があるだの、またヒラメいちゃっただの、もっと足した方がよくね?だの、何書いてんのか解らんだとか、感情入んねーなーだとかがね、ナンボでも涌き出てきて終わりが見えなくなるんですよね。ほら、元が一行だから。無計画な増改築ってほどじゃないけど、それに近いナニカですわ。


 第一稿は下書きなんだけど、下書き終わるまでにラクガキの原型はもうないです。


 ヒョロヒョロした細い幹一本に、何本もの蔓がね、巻き付いて野太くなってます。


 それが私の一番遣りやすい書き方かなと思います。



 さっきの不死身くんの話だったら、しょっぱから困ります、たぶん。やっぱ異世界に来たことにしたいんですよ、だってまず浮かぶのは「これ舞台が現代だったら殺害やばくね?」ての真っ先に来るんで異世界のが都合いいんです。そしたら異世界に転生する部分のリクツ欲しいです。神さまは芸が無いから別ので。


 トラックとか神さまのお詫びでとか以外がパッと浮かばないんで、とりあえず保留にしといて、転生者としてダンジョンに潜って殺されかけますね。不死身の化け物になってダンジョンを逆走して外を目指しますよね、クリアすることに価値ないんで、彼にとっては。なんなら天井を直掘りで垂直に地上を目指しますわね、裏切ったチームの匂いを追ってくるとか胸アツ。


 でもこれじゃ面白くないですよ、不死身くん視点で書いてもきっと面白くない。これの面白いのは、追われる立場になったチームメイトの方だから。だから、一人称は止めにして、三人称の傍観者視点で書きましょうよ。冷酷に殺戮現場を描写した方がクールに違いないです。


 じゃあいっそ主人公の不死身くんの自我は崩壊しちゃった方がスッキリしますよね。野獣みたいになっちゃって理性とかないの。話が通じないのが一番嫌な敵だし。情けなんぞ彼にはもう不要でしょう。


 デップーからペニーワイズにシフトチェンジしちゃいます。その方が面白そう。


 とんでもないモンスターになった彼が、外道な元チームメイトたちを追っかけ回すわけですよ。


 だけどそうなると、このチームメイトたちが哀れな被害者になるだけじゃ、やっぱり面白くないです。何かないかな、何か。……せっかくの外道設定なんで、外道な手段の限りを尽くして逃げ仰せようとする、とか?


 ひとつ、アイデア浮かびました。仲間の一人を犠牲にして罠を仕掛けましょう。仲間は泣き喚いて嫌がるわけですよ、それをチームのヤツらは外道なんで聞かないわけですよ。きっと面白いシーンになります。


 で、まんまと不死身くんをマグマかなんかに落としてですね、「やったぞ、倒したぞー!」とかヌカ喜びしてるトコに、マグマの中から”ざばぁ”した不死身くんがグラビームで、ソイツを消し炭にする、と。


 やっぱ一人ずつが礼儀なんで、他の連中は難を逃れてますよね。しかしコレ、風呂敷を広げたはいいけど、畳み方がぜんぜん浮かびません。ボツですね。(笑


 まぁ、そういう感じで、見切り発車で本番連載書いちゃうと大掛かりな改稿が出来ないから損ですよね、という話でした……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る