第31話 俺と友達に――……。ふぇ?

 王都に向かい行軍こうぐんをする中、俺は隊列たいれつを離れて――ある人を探していた。


 6千も兵がいると、探すのにも苦労する。


 戦利品である馬にまたがり、他の兵が行軍こうぐんする邪魔にならないよう探しているから中々見つけにくいのもあるが――。


「――居た!」


 やっと見つけた!

 馬に乗るテレジア殿。


 そして彼女の隣には――同じく馬に乗るエレナさんが、まるでテレジア殿を護るように周囲を睥睨へいげいしながら寄り添っている。


「これが互いを助け合う仲間のあるべき姿だな。汚いおっさんや社会に潰されまいと、若者が互いを思い合う姿は――なんて格好良いんだろうか」


 思わず頬が緩む。

 そうして俺は、徐々にテレジア殿やエレナさんの傍へ馬を並べていく。


「ルーカスくん? どうしてここに?」


 最初に俺へと気が付いたのは、過剰な信仰心がたかぶった兵士に声をかけさせまいと、周囲からテレジア殿を護るエレナさんだった。


 小柄こがら体躯たいく

 冷静な表情で青髪を揺らし首を傾げている姿は、まるでリスのように愛嬌あいきょうがある。


「……ルーカスさん。自分の隊列に居なくて良いんですか?」


 エレナさんが俺を呼ぶ声に顔を上げたテレジア殿は、はかない笑みを浮かべて俺にそう尋ねた。


 はかなくも美しいと言う言葉はある。


 だが俺は――親しい人には、本心から笑っていて欲しい。

 若者には、まばゆい笑顔を絶やさずに生きて欲しい。

 若者の魅力を一番引き立たせるアクセサリーは――宝飾品ほうしょくひんよりも、弾ける笑顔だと思う。


「実はテレジア殿に急ぎお伝えしなければならない事があると思いましてね? 知っての通り、俺は準男爵家の3男。10人隊長でありながら、部隊員を失った者です」


「……はい。そうおっしゃってましたね?」


 急に何を言いだしたのかと言わんばかりに、テレジア殿は怪訝けげんそうな顔をしている。


 これはそう――俺がこの魔法が存在する異世界で、ルーカス・フォン・フリーデンとして目覚めた歴史だ。


 あの救護テントでテレジア殿に救われ、記憶の整理を手伝ってもらった時から歩んできた道を――1つ1つ脳内で思い起こす。


「その後は臨時に他の部隊へ組み込まれたものの、なんやかんやあって300名を指揮する中級士官と同等の扱いになり、その部隊も解散」


「……ええ。本当に、ルーカスさんは自分の成すべき事を成しています。それがどんな難事なんじだろうと、笑ってやり遂げる。……素晴らしい殿方です」


 まるで――自分なんかとは違い、と言わんばかりの言葉だ。


 どうにも、おっさんになると回りくどさに拍車はくしゃかっていけないな。


 エレナさんも、なんで今そんな話をするのか。

 そう疑問を交えた色合いの瞳を俺へと向けている。


 かなり照れ臭いけど――ちゃんと伝えなければ!


「その、ですね?……俺が命を救われた時、テレジア殿から提案された約束を保留ほりゅうにしていた、じゃないですか?」


 成る程。

 武士道とも恋の道とも関係ないけれど――人は女性に大切な思いを語りかける時、これ程にもよどむんだな。


「これから死ぬかも知れない戦場で、軽々けいけいに未来の約束は出来ない、と。お、覚えていますか?」


「……ぁ」


 言われて思いだしたのか、テレジア殿は吐息のような声を漏らした。


 よ、良かった。

 これで『そんな約束ありましたか?』と言われたら……おっちゃんはスゴスゴと退散するしかなかったよ。


 頭の中で――何時どんな時に、テレジア殿は笑っていたか。

 どうすれば、その時のような笑みを浮かべてくれるか。


 女心も、恋の道も知らない俺なりに――懸命に悩み抜いたプランが、崩れ去る所だった……。


「その……今度は改めて、俺から言わせてください!」


「…………」


 ああ、何故だろう。

 たった少しの言葉を口にするだけなのに――言葉に詰まってしまう。


 胸が――決して不快ではないが、妙な感覚に陥る!


「お、俺と……こんなおっちゃんではありますが、学園でお友達になってくれますか!?」


 女性を元気づけようと思い行動するのは、慣れてない。

 これなら斬り合いの方が余程、緊張しない!


 テレジア殿は俺の大声に驚いたのか、やや目を剥いている。


 そして――。


「――嫌です」


 ニコッとみを浮かべながら、そう返して来た。


 あ……え。

 断られた?



―――――――――――

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