第27話 おっちゃんの活かし方

 馬に乗る俺が駆け寄るのを見た敵将が、周囲の兵を鼓舞こぶしている。


 ここで冷静に指揮を執る者の存在が――混乱を巻き起こす夜襲やしゅう阻止そし、被害拡大を防ぐには最も有効的だと、この御仁ごじんは理解しているのだろう。


 敵ながら、大した武士ぶし――騎士きしぶりだ。


「貴様が敵の指揮官か! ヤツを止めろ、止めろぉおおお!」


 バーゼル伯爵の勇猛ゆうもうな声に反して、集まっている人数は心許こころもとない。

 急な夜襲、軍の指揮や衛兵当番えいへいとうばんりも未だ不十分だった弊害へいがいだろう。


「――はははっ! これなら届く、届くぞ!」


 馬を駆けさせ、すれ違う敵は剣の腹で叩き伏せる。


 そうして――バーゼル伯爵の顔が見える位置まで来られた!

 俺の顔を見たゾリス連合国のバーゼル伯爵は――驚愕きょうがくに目を見開いた。


「なっ!? まだ子供、だと!?」


 俺の顔の造りが若いことに驚愕きょうがくしているらしい。

 バーゼル伯爵は立派なひげ……50歳前ぐらいだろうか?


 うむ!

 指揮官としては――最高に脂が乗っている年齢だ!


「残念。中身は貴殿と同じ、おっちゃんですよ。――おっちゃんの剣、馳走ちそうしましょう!」


 馬に乗り迫る俺の剣に、バーゼル伯爵は反応が出来ていない。


 俺は――すれ違い様に、その首を跳ね飛ばした。


「バーゼル伯爵、討ち取った! 全軍、そのまま突っ切れぇえええ!」


 士気が上がった自軍の兵士たちは――馬を止める事なく、青い光を話す拠点を燃やし尽くす。


 魔法師団と、おっちゃんたちの快進撃かいしんげきは止まらない。


 俺も馬を止める事なく、魔法師団やそれを取り囲む兵士たちを護る為に剣を振るう。


「敵将を討ち取った首級みしるしを持ち帰れれば、士気も上がったのだろうがな」


 少々、惜しくもある。

 その首級みしるしがあれば――敵も誤魔化しが効かなくなる。


 噂は波のように広まるから、重要な物資も失った敵の撤退を決定付けられるのだが――。


「――ルーカスくん、バーゼル伯爵の頭部鎧!」


「お、おお!? エレナさん、どうやって!?」


 その見事な装飾の頭部鎧は、間違いなくバーゼル伯爵が身に着けていたものだった。


 頭部は跳ね飛ばしてしまったと思ったが……。

 エレナさんは、どうやって手に入れたのだろう?


重力制御魔法じゅうりょくせいぎょまほうで拾った」


「魔法とは何でもありですか!? はははっ!――しかしこれで戦を決定付けられますよ!」


「うん。……火計も、大成功」


 少し振り返れば、俺たちの切り拓いて来た道には――火の海が広がっていた。

 この世界で火とは――魔力を使い起こすのが基本だ。


 実戦レベルでなくとも、小さな炎を灯す魔法ぐらい鍛えた兵士が時間をかければ使えるのが一般的。


 もっとも急襲でそんな事をしたら、魔力感知まりょくかんちされてしまう。


 だからこそ古典的な火矢を用い、光魔法を込めた鉱石を置いた重要物資の拠点へ集中して火矢を打ち込ませる。

 その原始的な作戦が功を奏したようだな!


「景気よく燃えたことだし――撤退てったいですな!」


「うん。ここまで燃え広がれば、水魔法で消化を始めても遅い」


 炎の柱と黒煙こくえんが立ち上っている状況は、敵からしたら悪夢だろう。

 さて、犠牲を出さぬように――。


「――全軍、作戦通りに敵軍を突き抜けるぞ!」


 事前に説明していたように、馬を翻すことなく陣を突っ切る。


 重要な備蓄庫びちくこを狙い、敵陣をただ横切る。

 止まる事が無い馬に、防戦体制を一切取れていない敵軍。


 散発的さんぱつてきに起こす防御行動ぼうぎょこうどうでは、準備を整えた俺たちを討止うちとめることは叶わない。


 結局――自分の率いたおっちゃん、そして魔法師団に死者はない。


 ある程度、追っ手から逃げ切り自軍の被害を確認したが、軽傷者が十数名出た程度。


 それも魔法師団を囲って護っていた、おっちゃん騎兵のみだ。

 敵の追撃も届かぬぐらい自軍へ近付くと、誰も彼もが輝く子供のような目をしている。


 やり遂げた、達成感と活力に満ちた瞳だ。


 そうだよ。

 年甲斐としがいもなく、はしゃいでしまうよな。

 これこそが――大義の為に己がすべき仕事を果たした者の目だよ。


「活き活きとしていて、皆が良い眼をしてますね! 人生を悟り、死んだ魚のような目をしていたのが嘘のようですよ! はははっ!」


 自軍への帰り道、早足はやあしで馬を進める俺の冗談に――全員が朗らかな笑顔を浮かべた。


 若者もおっちゃんも、やりたい事や、やるべき事に燃えられる。

 こんな顔を浮かべる民ばかりの国なら――未来も明るいだろう。


「――ルーカスくん。奇襲、大成功」


「エレナさんのお陰ですよ。待機時間の少ない魔法の連発、お見それしました」


「……絶対、私だけじゃどうにもならずに王都まで陥落してた。ルーカスくんは謙遜しすぎ」


「はははっ! おっちゃんは経験から身の程を知っておりますからね。驕ることが少ないのですよ」


「また何時もの冗談?……本当、不思議な人」


 しらそらもと、見えたエレナさんの顔は――本当に美しい笑みだった。


 思わず、胸がチクリと痛む程に。

 そうして俺たちは、自陣へと帰り着き――。


「――敵が前線へ送る貯蔵庫ちょぞうこは燃やし尽くしました! 作戦、成功です!」


 迎えてくれた味方の兵に、そう報告をした。

 敗戦ばかりの戦。


 聖女をまつげずに居られない程、士気が落ちていたジグラス王国軍に――歓喜かんきこえが上がった。


 おっちゃんも、若者も。

 年齢関係なく入り乱れ、喜びの笑顔を交わし合っている。


 年代差を感じさせない平等な笑顔の向け合いが、俺には朝陽あさひよりも眩しかった――。



―――――――――――

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