じゃんけん
「あらま、今日はミックスジュースの日だというのに二つ余ってる。」
ここは都会にある小学校。一クラス三十人いる、この辺では大きな小学校だ。
「じゃあ誰か欲しい人いれば、じゃんけんで。」担任のミチヨ先生はこの言葉にそこまでの責任は持たない。だが、小学五年生の私たちはその一言が壮絶な戦いを意味していることを知っている。
「はいはい!おれ!おれほしい!」武士と書いて、タケシだ。やはり来たか。
「おれも!」その友人、裕福に満たされると書いて満裕、ミツヒロだ。
「・・・。」手を上げる。私だ。このクラスの委員長を務める、愛と書いてアミ。負けない。
「ええ、じゃあ、前に来てください。牛乳じゃんけんです。あ、違うわ。今日はスペシャルデー。ミックスジュースじゃんけんです!はい、来て。」すると、ひとりの女の子が照れ臭そうに前に来た。
「あら?どうしたの。サキちゃん。」
「・・・あの、その。私取り忘れてたみたいで。す、すいません。」
「あー!サキちゃんだったのね。二つ余るの変だなって思ってたんだ。大丈夫よ。」そう言って先生は一つをさっとサキに渡した。・・・忘れる?そんなこと・・・。
「よっしゃ!じゃんけんすっぞ!今日はアミには負けないぞ。」
「俺だって、タケちゃんも倒す!」このメンバーはいつも変わらない。そして、この戦い私に分がある。まだ、子供なんだ。心理戦を理解しちゃいないのよ。
「私は、パーを出す。」宣言。
「なら、俺はグー。」
「お、俺はチョキ!」これは小学生特有の見栄っ張りだ。この、ブラフ合戦において大切なのは相手の宣言が嘘か本当か。それが三人でのじゃんけんとなると、頭が追いつかない。自分から言ってしまった手の事もあるし、あと二人の宣言手が何だったのか。そんなことを考えながら・・・。
「「「最初はグー!」」」
「じゃんけんポン!」私はチョキを出す。なぜなら人は、頭の処理が追いつかない場合、手を開くケースが多い。その場合、グー以外となる。すると残るのは、パーとチョキ。その二つで勝つのはチョキ。そう、そもそも宣言の段階で出す手は決まっていたんだ。私の勝ちだ。
男子二人はパーだった。やっぱり勝った。「ちくしょー!」なんて。まだまだ子供ね。
「はい、アミちゃん!おめでとー。」ミックスジュースをもらい、席に戻る。しかし、最初感じた違和感が消えない。・・・サキの机を見る。そこには、アキトが座っている。!?なぜ。アキトの手元にはジュースが三つある。サキは取り忘れてなかった。さらにそれらはアキトのために、やったのか。・・・やられた。アキトは小さく語る。
「じゃんけんをするという状況がもうすでに負けてるんだよ。まだまだ子供だね。」
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