ぴぃぃぃlん。音が聞こえる。なんだろうな、この音。耳鼻科に行こ。

一通りの検査を受け、診察室。

「ええ、うん。これといって、異常は無いですね。」

「ああ、そうですか。」

「その・・・音というのは口で言うとどんな感じですか?」

「ぴーーーん。って感じです。」

「はあ、もう少し細かく。」

「ぴぃぃぃぃーーーん。ってな感じです。」

「ふむ、あれとは違いますか。モスキート音。」

「なんですか?それ。」

「若い人には聞こえて、年を経ると聞こえなくなってくる。そんな音です。」

「へぇ。そんなのがあるんですね。」

「ちょうど、そんな音なんです。どんなんでしたっけ?」

「ぴぃぃぃーん。」

「ああ、それそれ。」医者の口元はニヤニヤとしていた。背後で、看護師さんたちがくすくす笑っている。顔が熱くなった。

「なら、問題無いんですね。」

「ええ、むしろ耳は良いですよ。かなり。」

「へぇ、そうなんですね。」診察室を後にする。待合室で財布を無くしたと騒ぐ患者がいた。しばらくして、ぴぃぃぃーん。あの音だ。

「また、来ます。お騒がせしてすいません。」財布を無くしたであろう患者は静かに帰って行った。・・・僕は病院を出た。

なにやら、病院の前を通りかかった高校生の集団がいた。ひとりは度の強い眼鏡のナヨっとした小さな男で、その他は野球部かな?丸坊主でしっかりとした体つきの男達三人。

「おい、病院あるぜ。こいつの声の小ささも診てもらえよ。」

「ははっ、確かにな。病気だもんなもう。はははは!」高校生集団はひとりを除いて高笑いしていた。・・・ぴぃぃぃーん。またこの音だ。何か掴める気がしていた。

しばらくショッピングを楽しんでから帰宅。

・・・家に着いた。鍵鍵っと。あれ・・・?忘れたか。うわあ、まさか病院に?それともショッピングセンター?どうしよう。まずは大家さんに連絡だな・・・と思い出した。この三連休大家さんは遠出していないんだった。やばい、どうしよう。と、開いた携帯の充電は4%だった。・・・ぴぃぃぃーん。あの音が聞こえた。・・・分かった。

こんな状況で、気づきたくはなかったな。



この音は、「心の折れる音」だ。

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