水槽①

 被告人、前へ。

最後に何か、言っておくことはありますか?

「・・・・・。ああ。」

では、どうぞ。

「お前たちはなぜ、見えないんだ。・・・なぜ。」

「この悲劇はお前たちが・・・いや俺たちが解決しなければならない大問題だろうが!」

被告人、黙りなさい。

「お前たちは何故、笑っていられる!?この世界の滅びはすぐそこにあるのに。」

「今、この場にもアレはある。・・・見えているのは俺だけなのか?くそ。」

被告人。アレとは?

「水槽だよ。」

水槽?

「今にも溢れそうな水槽。中身は真っ黒な液体で、それが水槽から外に出ると・・・・。」

「ひひっ、あひゃひゃははやひゃひゃひゃはは。」

被告人、落ち着いて。

「・・・ああ、ふう、そうだな。言い残すことだよな。そうだよな。アレが見えないならそりゃあ俺の方がおかしいと思うに決まってる。ああ、きっとそうだ。」

被告人、あなた自らが犯した過ちについて何か言う事は無いんですか?

「過ち?あ、謝ってしまうようなことがあったか?」

「俺が何か、しでかしたっていうのか?ええ?」

ええ。あなたは人を殺した。それも36人。殺人予告し、そして例外なく殺した。

「裁判長。言葉を間違えてる。殺人じゃない、殺戮だ。」

黙りなさい。

「あれは、必要な犠牲だ。」

「ここにいる遺族は知らないだろうな?あいつらは皆、同じクラスメイトだ。」

被告人、罪の意識は無いという事で良いですか?

「ああ、無いね。これっぽっちも無い。」

「だって、あいつらはイジメをしていた。覚えてるはずだよね。あれは凄惨な自殺だった。自らに火を放ち、公園の片隅でひっそり燃え死んだ。」

被告人、少し冷静になってください。

「は。俺はいたって冷静さ。その時、彼の最期を看取ったのは俺だけだ。だからこの腕を見ろ!消えぬ火傷跡が俺を修羅へと変えた。」

「あいつ、最後になんて言ったと思う?(僕のせいで、迷惑をかけてごめんよ。)だぞ。なあ、そんな奴が死んで、カスみたいな集団がのうのうと生きる。俺は許せないな。」

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