月
今日も今日とて残業です。これでもう、五年目とかになるんだけど、新卒一年目から、この様子だ。最初はむしろ助かった。仕事を覚えるのに時間がかかる僕からしたら残業はむしろ必須とも言えた。だんだんと仕事を覚え、だんだんと慣れていく。一年を過ぎたあたりから、違和感が増してきた。どうも、仕事が早く終わったからと言って帰ってよいわけではないようなのだ。何に対しての配慮なのかは分からない。けど、みんなそうしてる。明日やればいい事を今日、残業して終わらせる。その繰り返し。そしてその状態を上司に悟られないようにする。手が空いてると思われると、また別の仕事が振られる。そしてそれを残業で消化する。優秀過ぎて、そうなった同期の子は精神的な病にかかって仕事を辞めてしまった。優秀というのも考えものだ。そんな感じで、五年が過ぎた。・・・帰路。
こちらの電車、終電となりますのでお急ぎください。ピピピピ。プシュー。
「・・・はあ、はぁ。」なんとか終電には間に合った。今日は残業・・・ではない。地元から友人が遊びに来ていたのだ。今となっては半年に一度とかになってしまったな。アイツと会うのも。合って何をするわけでもない。ただ、飯を食い映画を観て、話をする。友人というのはそんな感じで良いと思う。ほんと、半年周期で心にたまった膿を吐き出す。それをアイツは黙って聞く。時には会話のターンを譲り、向こうの不満を聞く。あいにくアイツの職場は温かく、そこまでの不満を聞いたことは無い。もちろん、残業も無い。
「・・・ふう。」最後に買った温かい緑茶を飲む。少しぬるい。
「・・・・・。」今日は、ひどく悪酔いした。不満をまき散らす騒音マシーンの如くだった。
それでも話を聞いてくれる。そんな友人がいなければどうにかなっていたかもな。幸運だ。
今日は嫌に天気が良い。月がはっきりと出ている。・・・ん?三日月だよな、あれ。
電車の中から見える月は、欠けていた。半月よりもさらに削れていた。そしてそれは左右ではなく上下に削れていた。そう、つまり・・・誰かの微笑みのような月だった。それを微笑みと取るか嘲笑いと取るかは人によるだろう。僕は何だか不気味に思った、まるで今の状況を見て天があざ笑うかのようで、世界に見放された感覚が・・・・・いや、気のせいだろう。
こんな形で限界を迎える社会人もいる気がするよな。例えばそう、今あの月を見て限界を感じ、僕なら舌打ちをするだろう。そして、何事も無かったように明日また仕事に行く。それが本当の限界を超えるまで続けていく。自分が壊れるまでただひたすら。それが大人といえるのかもな。僕はまだ限界じゃないんだ。
・・・背後で舌打ちが聞こえた。それも一つではない。
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