思い出②
もう、疲れたな。そう思えば思うほど、余計にそう思えてくる。
今日は何もしなかったな。・・・・・昨日も一昨日も何もしていない。
何もしていないから、腹も減らない。味もしない。味覚がないのは関係ないか。
何もしないというより、何もできないんだ。今日は4時間ぼーっとしていた。
「もう、終わりにするか。」最後の外出をすることにする。
巡るのは世話になったお店。和菓子屋と家系ラーメン屋。
まず、ラーメン屋に向かう。ああ、そうか定休日だ。残念。
なら、和菓子屋「味生」(みぶ)。こちらでは、かなりお世話になった。何がといえばこれといったものもないが、ただ会話をしてくれた。それだけに尽きる。
店に入る。こんな時間もやってるんだな。
「こんばんは。」
「・・・・・ああ!いらっしゃい。」
「・・・。」いつもの人だ。何というか安心するお店の人という感じだ。おねえさんというには苦労を重ねているようで、おばさんというには若いイメージがある。
「・・・これを。」
「ありがとうございます。・・・うん。」おもむろに商品を物色する。店員さんである彼女が何かを物色するのは不思議な光景であったが、すぐにその理由を知る。
「・・・君の名前も人生も知らないけどさ。」
「・・・・・?」
「せっかくこの店に来たんだ。そんな顔で帰すわけにはいかないね。」その女性はハッキリと目を合わしながら、そう言った。力強い言葉だった。
「これ。サービスだから。ちゃんと食べて。」いちご大福と共に入ったのは赤飯だった。和菓子屋に赤飯?とは思ったが明らかに心の中で温かく灯る熱を感じた。
「あ、ありがとうございます。」
「また、来てね。」
「・・・・・・・。また来ます。」自分は店を後にした。いつもより重いそのレジ袋は歩き方に影響を及ぼすほどだった。
「・・・ただいま。」誰もいない自宅に反響する。
「・・・。」椅子に座り、自分を終わらせるための道具の数々をひとまとめにする。うん。まさかこんな形で救われるなんて。自分を救ったのは家族でも友人でも、恋人でもなくただの他人だった。勝手に救われて、勝手に生きる意味を知る。・・・赤飯を口に運ぶ。
「少し、しょっぱいな。」口に運ぶにつれて、視界がかすむ。涙がぼろぼろとこぼれ落ちたが、そんなことより飯を食った。今まで食った何よりもうまい。なんてことはないが、ただ。腹が減って、味がした。なんてことない人の温かさに触れた・・・そんな記憶。
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