思い出①
入り口のインターホンが鳴った。ぴんぽーん。
「あいあい、すぐ行きます。」ガタつく身体に無理やりエンジンをかけ立ち上がる。
「・・・どちらさま?」
「うわあああああん。」「すみません、駄菓子屋さん。」
「・・・?」
「うわあああああん。」「弟が、ちょっと。寂しくなっちゃったみたいで。」
「ああ、そうか。入りな。」シャッターを開ける。すると、連動するように弟君は泣き止んだ。最初は何事かと驚いたが、まあ問題なさそうだな。
「・・・。」鼻をすすりながら店内に入る弟。兄のほうは礼儀正しく一礼している。
「あんた、立派なおにいちゃんやね。」
「・・・。いいや。」照れ臭そうに鼻の下をこする兄。
「よっしゃ、特別や。」パンと手をたたく。
「何か好きなお菓子、三つまでサービス!」それを聞いた弟は完全に泣き止んで、笑顔になった。口元にはまだ歯の生え代わりを終えていない、がたつきがあった。
「・・・なんでもいいの?」
「おお、棚の上にあるフィギュアとかは無し。これは高いからのう。」
「うん、別にいらない。」ばっさりと言い切る弟。
「む、そうか?これとか良いぞ。」意地になって少し商品のプレゼンを始めてしまった。
「これは戦闘機。有名なモデル。」
「ふーん。」まったく興味を示さない。
「なら、これは?大蜘蛛の人形。」
「・・・・・うええ。」あまりのリアルさに引いてはいるが、興味は持ったようだ。
「・・・・・。」兄の方もわざわざ近づいてきた。よし、プレゼン成功!
「これをな、どう使うかというとな。・・・うん、もうすぐ婆さん帰ってくる。」ニヤニヤと悪い笑顔になって、兄弟に隠れて見ているようにと指示をする。入り口を開けて最初に目に入る机の上に、この大蜘蛛を置いて、爺さんも隠れる。・・・足音が近くなる。
「・・・なんやの、店開けて・・・。」婆さんはギョッとした顔で、とてつもない爆音を発した。
「うわああああああ!」あまりに驚き、尻もちをついてしまう。けたけたと笑う、少年兄弟と夫である爺さん。その時に弟は不思議に思った。爺さんのその表情が年老いてはいるものの、まるで少年のような笑顔だった。胸の奥が温かくなり、この記憶はいずれ大切な何かへと変化するんだろうと、子供ながらに思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます