努力家
男はとにかく勉強をした。大きくなって、同い年の人間と差をつけるためだ。さらに勉強で差をつける。すると、誰よりもお金を稼ぐことが出来る。そうだ、これでいい。友人も同じような優秀な人間ばかりだ。
ん?ああ、野中?あいつは着いてこれなくなったから、クビだ。日々の積み重ねのみが人間を強くする。あんな怠け者、俺らのグループには必要ないね。三十代には友人なんて必要ない。だって、家族がいて。職場があって部下がいる。地域コミュニティにも参加するから人との交流は人生の付きものさ。もうすぐ企業しようとも思う。優秀な人材のみを引き抜いて、それを撒き餌に海外から優秀な人材を募集する。ああ、そうだ、とうとう世界へ行く。もう、この国には用は無い。この国で俺より努力してる奴なんていないだろ?それと、海外は何かと物騒だ。肉体を鍛える必要がある。でも、それもすでに達成済みだ。ボディビル大会で優勝してしまうほどに仕上げている。いやあ、これがついつい勉強の間にハマっちゃって。日々の努力は裏切らないなぁ、ほんと。
海外へ拠点を移す2日前。都内某所。
「すまんすまん、五分前に来るつもりが二分前に着いちゃって。」
「いえいえ!滅相も無いです!謝罪なんて必要ございません。」
「ああ、そうか?礼儀も一通り学んだからね。つい。」
「本日は、我々のような小さなコミュニティのボランティア活動に参加いただきありがとうございます。○○さんにまさか、お力をいただけるなんて・・・。」
「いやいや。なんせもうすぐこの国から離れるだろう?世話になった恩返しの一つでもさせてくれよ。」
「いやあ、さすがでございます。」
「今日は何を?」
「炊き出しです。」
「ああ、ホームレスの方々に食事を無償提供する活動か。」
「ええ、その通りです。」
「俺はいるだけでいいんだよな?・・・関わりたくないし、そんな人間。」
「ええ。いて下さるだけで宣伝効果になりますので!!」
K公園は、すでにホームレスの行列を作っていた。少し高いところに立たされた男は注目の的だった。この方のおかげで今日も命を繋げる。感謝の言葉を投げかけるものもいた。仕事は分刻みだ。別の仕事の資料に目を通しながら、感謝を無視する。びゅうっと風が吹いた。資料が手を離れ、宙を舞う。ひとりのホームレスがそれを拾った。瞬時に目を通し一言放つ。「ここ、間違えてるよ。」この俺が見つけれなかったミスを、数秒で見抜いた。初めて俺より優れた人間と出会った。いや。・・・その姿は見覚えがある。ああ、そうか、野中だ。
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