赤い水

 「おい、怠けるな。それでは、また俺と同じ人生になるぞ。」と怒鳴りつける。

時代は変わり、一人の人間から一人の子供が生まれるようになった。体の細胞からDNA情報をコピーし、「ゆりかご」という人工子宮の中で機械的に生成された受精卵の情報を書き換える。これが現代における少子化対策となった。男女平等は性別を完璧になくすことによって達成されたといえる。現在、一人の人間は強制的に一人以上の可能性へと枝分かれしていく。人類が増えることはあっても減ることは無い。「ゆりかご」出身者のことを人外だと主張する団体は居ても、わずかばかりだ。人々は孤独からも脱却することに成功した。自らの青春を強制的にもう一度やり直すことが出来、さらにもう一度。さらにもう一度と繰り返す。自らが選ばなかった選択を子へ託す、それが可能となった。しばらくして、問題が起こった。「ゆりかご」から生まれた者にある病気が蔓延したのだ。病名を「赤水症」という。概要は以下の通り。

・全身の液状化。同じ質量の薄赤い水になる。予兆はなし。

・発症から1週間で死に至る。

・現在、原因不明。

・対処法はSVという首輪をつけ、液状化が脳へ至らないようにする。

多数の死者が出たが、SVが開発されてからは特に問題のない、なって当然の病となった。液状化は本人の意志でどうとでもなる。首から上が液状化しない限り、首以外が液状化してしばらく経ったとしても本人の意思ひとつで、すぐに元通り。その光景はまるで人間とは程遠いものであったが、「ゆりかご」によって生み出された人類を「新人類」として扱うことによりまるで当然の風景となっていった。そして時は流れ・・・。


「怠けるんじゃない。父さんと同じ人生を変えろ。」怒鳴りながら顔を殴る。

「・・・うん。やるよ。やればいいんだろ。」とふて腐れながら言いつけは守る少年。首には何かの奴隷であるかのような大きな首輪。ヒロは父親に逆らったことは無い。不思議な話だ。男女やそれ以外の平等は成されたものの、己のアイデンティティを守るために、子供には母だの父だと呼ばせている。正式に血の繋がりなどない。DNA情報を参考にしただけの他人であることは皆、分かっている事だと思う。でも、その事実からは目を逸らす。どうやら歴史的にみて、少子化というのは人類滅亡へ王手をかける危険なものだったというのだ。「次へ繋ぐ、何をしてでも。」これが現代における人間の第一目標だそうだ。「ゆりかご」生まれの僕にはわからない。だって、僕たちは人間じゃない。「赤水症」だって?笑わせる。「ゆりかご」から生まれた者は皆、黙ってることがある。それは、お互いの感情や思考をすべて共有しているんだ。こんな首輪で僕たちを縛ろうとしている人類。そこに大きな衝撃を与える。それが我々、「新人類」の計画だ。・・・決行は明日。やっと終わる。

翌日、大きな津波が起こった。大陸全土を巻き込むほど。その色は「赤色」だったという。

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