魔王

 それは突如発生した。聞けば元は人間だったという。祝福のもと生まれ、幸福に育ったそれはただ純粋に破滅を望み、それを成し得る力を持った。それは「魔王」と呼ばれる。今現在、魔王のもとに国家があり、国家のもとに人間がいる。実際に魔王の姿を目にした者は存在しない。いや、存在はするがその全てが生きて帰りはしなかった。一つの例外なく全てが死に絶えた。一つだけ手掛かりがあるとすれば、ある記者の最期の手紙に記された魔王とある親子の会話だけだ。

「あああぁ、魔王様ですか!ああ、助けてください!この子が不治の病に罹り、今にも息を引き取ってしまいそうなのです。どうか、お助けください!」

「・・・・・・・・・。」

「私の命はどうなっても構いません!ですからどうか、この子だけは!この子だけは・・・。」

「その言葉に虚偽は無いな?」

「え?ええ、もちろんです。私の事は煮るなり焼くな・・・。」

瞬間、魔王と呼ばれるそれは、母親の首を捩じ切った。その速度はあまりに早く、首が捩じ切れようともまだ、首は意識を保つほどに声をあげた。

「あああああああああ!」

「・・・・・。」その顔をジッと見つめて魔王は心底つまらなそうに放り捨てた。

「あぁああぁ、私の身体。いやだいやだいやだ。死にたくない!」

パチンと、魔王は指を鳴らした。すると、母親の首はまるで何もなかったかのように元通りになっていた。母親は体中の毛穴から汗が吹き出し、よだれや涙で顔はグシャグシャになっていた。

「よかった、よかったあ。」

「くだらん。これだから人間というのは。」

魔王は、背を向け同時に姿を消した。



ここまでが手紙から解読できた内容。この出来事が起こった地は特定できない。なぜなら、その土地は今や焼失した地球という星に有ったという。

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