短編25集

不二、

タクシー

「お願いします。」

「・・・お客さんどちらまで?」

「○○駅までお願いします。」

「分かりました。」

「・・・・・。」

「お客さん、あれですね。」

「・・・?」

「男前。」

「ああ、はは。ありがとうございます。」

「よく言われるでしょ。」

「いや、まあまあ・・・。」

「というより、むしろ・・・。」

「・・・?」

「女性をその気にさせるだけして、まるで何もないように逃げる、そんな感じかな。」

「・・・え?」

「釣るだけ釣って、何もせず手放すその繰り返し。」

「なんですか?」

「一番タチが悪い。」

「・・・なん、なんですか。まるで知ってるみたいに。」

「よく分かりますよ、お客さん。あんた皆に心を開いてるようでいて、実際は親ですらまともに心を開いていない。寂しさすら上辺だ。薄っぺらな孤独を纏うだけのピエロ。」

「・・・・・。」

「特にこれといったトラウマもなく、大きな失敗もなく、ただただ蓄積があなたを作った。」

「・・・・・。」

「皆が皆、同じ土俵で戦う中、あんたはモニター越しで戦ってる気がしてるだけ。」

「・・・うるさい。」

「その目、良いね。被害者ぶるには絶好のパーツじゃないか。」

「・・・おい。いい加減にしろ。」

「はい、到着。」

「え?」

「お代は結構。良い顔になった。それが君だ。君は実に醜く、そして美しい。」

「・・・・・。」男は初めて、本当の自分と向き合ってくれた気がした。なんだかすっきりしたタクシー運転手の顔は僕そっくりに見えた。

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