1-48 無念です
「そらっ!」
突き出された槍を最低限の動きで
真っ二つにされたロボットは動くことの無いスクラップになっていた。
「こんなところか、マップ」
言葉とともに雷人の目の前に侵入不可区画の全体図が表示される。
確認してみると、今まであった赤点は残すところ残り三つになっていた。
フィアが戦っているあの男。
そして唯、空からそれぞれ十数メートル程離れた辺りに一体ずつだ。
雷人は行動方針を決めるため、空と唯に確認をとることにした。
腕時計型端末を口の前まで持ってくる。
「あーあー、空、唯、こっちは終わった。手伝いはいるか?」
確認を取ると返事はすぐに来た。
「こっちは大丈夫」
「こっちも大丈夫です。あと一体だけなので、フィアさんの方に行ってあげては?」
「……そうしたいのはやまやまだけど、さっきやられたばっかりなんだよな。行っても邪魔したんじゃ意味ないだろ?」
「じゃあさ。とりあえず見つからないように全力で隠れつつ様子を見たら? 何か手伝えるチャンスもあるかもしれないよ?」
空の言葉に雷人は数秒考えたが、やはり気になるものは気になる。
とりあえず見に行って、本気でやばそうだったら手を出すことにし、マップに映るフィアの元へ向かうことにした。
「そうだな。そうするか。そっちも最後だからって気を抜くなよ」
「分かってるよ」
「はい、問題ありません」
その返事を聞き、雷人はフィアの方向へと歩き出した。
*****
その頃、唯と空は廃墟の陰に身を隠しながら様子を
空が見つめるのは刀を持った人型。
唯が見つめるのは斧を持った人型。
どちらも今までの人型とは持つ武器が違っていて、体格も一回り大きくなっていた。
その光景を楽観視すべきでないことは二人とも理解していた。
慎重に観察する。
今までの人型には目のような部分があったが、あの人型はバイザーのような物を着けている。
ロボットなのだから飾りが付いただけ、などということは無いだろう。
今までのものとは何かが違うと考えるべきだ。
空は廃墟の上に登り奇襲を仕掛けることにした。
ここまでの経験から、ロボットは総じてあまり上の確認をしない。
多少強くなっていようが、気付かれる前に倒してしまえば問題はないはずだ。
「よーし、気付かれてないね。もらった!」
空がロボット目掛けて二階建ての廃墟の上から飛び降りると、不意にバイザー人型が上を向いた。
「えっ!?」
空は足を伸ばし、なんとか廃墟の壁を
そして、ロボットの背後に転がりながら着地した。
ロボットは刀を振り切っており、その軌道が落ちてくる空を捉えていたであろう事が分かり冷や汗が垂れる。
「あーあれかな多分、新型ってやつ?」
空の声に答えるかのようにロボットが向き直って刀を構える。
今までの奴よりもよっぽどか様になっている。
これまでの人型の動きはは素人同然であったが、バイザー人型は動きに切れがあった。
「ちょうどいつものロボットじゃ物足りなくなって来たところだからね。望むところだよ」
空は前方に駆け出し、バイザー人型の動きに注意を向ける。
今までの人型のようにすぐに襲い掛かって来たりはしない。
どうやら相手の出方を伺えるようになったらしい。
しかし、空との距離が三メートル程になると、いきなり踏み込んで突きを放ってきた。
だけど、マリエルさんの修行に比べればこんなのは全然遅い。
空はしっかり刀を見ながら身を
「どんなもんだ……いっ!?」
足払いが成功したことで油断していた空は一瞬ロボットから目を離してしまっていた。
突然頬に熱さを感じ、血が流れた。
見るとロボットは腕一本で逆立ちしたまま、刀を振り切っていた。
とんでもないバランスだ。ロボットは跳ね起きて刀を再び構え、その間に空も後ろに跳び下がって距離をとり、体勢を整える。
今までの人型ならばせいぜいジャンプ出来る程度だったので油断していた。
このバイザー人型は逆立ちを出来る程のバランス感覚と力を持っているのだ。
油断していてはやられてしまう。
「最後にこんなの用意してるとか、全く、ゲームじゃないんだからさ」
空は気を引き締め、口の端を上げた。
そして下に転がっていた
そのまま、
そして空に向かって上段から真直ぐに刀が振り下ろされた。
しかし、刀は空を切り裂く事無く止まった。
普通なら出来る事ではないが、空の動体視力はそれが可能な域に至っていた。
そして、
「くらえっ!」
空は刀を掴んだまま地面を蹴り、体を
その
「飛んでけー!」
空はそれを遠くに投げ捨てると、悪者のように笑みを浮かべてロボットにじりじりと歩み寄った。ロボットはボクシングのように拳を構えるが全然怖くない。
「さて、やってくれたね。バイザー着けたロボットさん。怖い思いをした分、憂さ晴らしをさせてもらうよ!」
その後、空は全力でロボットを殴り、蹴り、動かなくなるまでそれを続けたのだった。
*****
一方で唯もバイザー人型と相対していた。
こっちのは斧を担いでいる。
先手必勝とばかりに
そして、そのまま戦闘に突入した。
振るわれる斧に聖剣をぶつけて何とか
聖剣がぶつかるたびに大きく弾かれ、体勢を崩されてしまうため、斧の速度自体は対応可能なものだったが、ギリギリの戦いを強いられていた。
「ふっ、はっ、くっ、やあああぁぁぁ!」
何とか
顔を滴り落ちる汗が目に入らないように腕で
「はぁ、はぁ、
聖剣を大上段に構え振り下ろしながら放った一撃。
現在の唯に使える最高火力の技。
輝く聖剣から放たれる光の奔流がバイザー人型を飲み込み、跡形もなく消し去った。
「ふふふ、私の力も捨てたものではありませんね。実戦で使ったのは初めてですが、なかなかの威力です。これならもしかしたら、フィアさんの手助けも出来るかもしれません」
唯はそう言ってキョロキョロと周りを見渡す。
この区域の最後の一体を唯が消し去ったので、当然ながら動くものはいない。
直線状にあった幾つものビルに穴が開き、一部は倒壊してしまっていた。
我ながらやりすぎてしまったかもしれない。
しかし、安全のためだ。仕方がないだろうと自分に言い聞かせる。
「マップ」
唯の言葉と共に生じた地図にマーカーが表示される。
フィアさんはまだ戦闘中、その近くに雷人君。離れた所に空君と一つの赤い点がある。
「残ってるのは空君の方の一体だけですね。フィアさんの方の様子を見に行きましょうか。いざとなれば私の力も役に立つはずです」
フィアの戦闘が気になる自分に嘘を吐かず、唯はそちらに向かうことを決めた。
「きゃあっ! いたっ!」
しかし、一歩踏み出した途端に前へ倒れこんでしまう。
同時に体に
「あ、れ? これは……もしかして、出力を間違えてしまいましたか……?
体を動かそうとするが、身じろぎするのがせいぜいで体が動かない。
なんとか仰向けになるが、どうやらしばらくはじっとしているしかなさそうだ。
「無念ですが、間に合いそうにありません……。フィアさん、雷人君、ご武運を」
遠のく意識の中、唯は手を胸の前で重ね、天を
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