1-44 素晴らしい切れ味です
今回の侵攻は以前までと比べて数倍の規模だ。
いよいよ、相手が本腰を入れてきたと考えて間違いは無いだろう。
それ故に、想定していない何かが起きる可能性があった。
だから一応、シンシアさんが邦桜政府に助力を申請はしてくれたらしい。
しかし、政府からは他国に悟られないようにするためなどと言って「
代わりに衛星を使って敵の位置把握はするらしいが、攻め込まれたら大問題だというのになんとも
相手の規模どころか目的すらはっきりとしないのだ。
念のために、それとなく警備を橋付近に集めるぐらいはしたらいいのに、と空は心の中で思っていた。
今、空は路地を走り回っていた。
空のいる一角は路地が複雑に絡み合っており、まるで迷路のようになっていた。
辛うじて空は渡されたGPSの機能の付いたデジタルマップによって自分の位置が把握出来ているが、もしこれが無かったら脱出するのに時間が掛かる事だろう。
政府の最低限の助力を有効活用しながらも不満を隠せないらしく、空の恨み言が廃墟群に響く。
「あー、何でこんな所に入って行っちゃうかなぁ」
「頑張って下さーい」
オペレーターのシンシアさんが励ましてくれるが、その程度で機嫌が直ったりはしない。
暗い上に視界が悪い路地では、いつ敵と遭遇するか分からないのだ。
遭遇すれば逃げ道は後ろしか無いし、簡単に挟み撃ちにも合うだろう。
ならばなぜこんな場所で戦っているかといえば、作戦開始前にフィアさんが見せていた金属のボール。あれは爆弾だったのだが、それを使って数体のロボットを破壊した所為だ。
爆弾を使って一気に複数体を壊せたのは良かったのだけど、その際に逃げた十体以上のロボットが路地に入り込んでしまったのだ。
路地の上にはなぜか天幕が張られていて光をあまり通さないので、とても薄暗くなっている。加えて、上空からでは充分な監視が出来ないので、衛星も当てにならない。
だから、半ばあてずっぽうで探すしかない。
四人の中で唯一範囲攻撃手段を持たない空がこの狭い路地に向かう事になるのはもはや必然であった。
「分かってるんだけどさー、確かに囲まれない事が一番メリットになるのは僕だけどさー、なんだかなー」
空が地味な役回りに苦言を呈していてもシンシアさんは呆れる事も無く励ましてくれる。
そんなだから少し甘えたくなってしまうのも仕方が無いだろう……と思う。
「まぁまぁ、良いじゃないですか。適材適所っていうじゃないですか。敵を一発で倒していく空さん、カッコいいですよ」
「えっ? カッコいい? カッコいいかな?」
「もちろんですよ。なんだかんだ言いながらも全く苦戦してないじゃないですか」
「そっ、そうかなー。お世辞だと分かってても悪い気はしないなー」
シンシアさんの言葉に空は照れ、心が少し晴れる。
空の心はわりかし単純なのであった。
真っすぐな道を走り抜け、角を曲がると目と鼻の先に人型が現れた。
一瞬肝を冷やしたが、相手が構える前には空の拳は届いていた。
空が拳に着けているグローブが振動し、人型を真っ二つにへし折る。
ウルガスさん特性の超振動破砕グローブだ。
このグローブは五層構造になっており内側への振動は減衰させる事で外側に触れるものだけを破砕出来るとかなんとか。
詳しい原理は全く分からないが、火力の足りない空にはありがたいアイテムだった。
「よっし、この調子で行くぞー」
元気に両腕を上げた空は薄暗い道を止まる事無く走り続けた。
*****
唯は一人、ビルの屋上の淵に座って下を眺めていた。
下には人型と大型のロボットがいて、大型を囲むように剣、槍、銃を構えた人型が円陣を組んでいた。
「……いつもながらワンパターンなんですね。さらに上の警戒をほとんどしない。設計ミスでしょうか? 何にしても、その弱点を突かない手はありませんね」
「……
和服の桃色少女が唱えるとその背に金色の聖剣が出現する。
現在その聖剣は光沢を帯びてはいるものの発光はしていない。
光らせていたらここにいると言っているようなものだ。隠れている意味がまるでない。
彼女はその内の二本を掴み前方へと向けた。そして、ロボット達が目的の場所に差し掛かった事を確認すると呟いた。
「
二本の聖剣は唯のイメージ通りに異なる速さで巨大化しながら二つのビルに突き刺さった。
その時に、ビル同士が支え合わないようにタイミングをずらす事も忘れない。
聖剣が至近に近付くまで気付かなかったロボット達は大きな音を立てながら崩れるビルに簡単に押し潰される。その様子を見て唯は
「ふふ、上手くいきましたね。でも一応、確認はしないとですね」
聖剣の一本を元に戻し、もう一本の聖剣を
すると、その時を待っていたかのように瓦礫を吹き飛ばしながら大型が出てきた。
しかし、その右腕に付いたガトリングを撃つ前にはもう、腰から真っ二つになっていた。
「あ、危なかったです。やっぱり油断は大敵ですね。それにしても、さすがは聖剣ですね。素晴らしい切れ味です」
しばしうっとりとした表情で唯は聖剣を見つめていた。
端から見たら完全に危ない少女だ。唯はハッとしたように真剣な顔をする。
「いけない、いけない。こんな事をしている暇は無いんでした。さぁ、次に参りましょう」
聖剣を持った危ない少女は次の獲物を探して走り出した。
そんな彼女の後ろでは、火花を散らしていたロボットが自爆機能でも積んでいたのか、大爆発を起こしていた。
彼女はビクッと驚き振り向いたが、何も動く物が無いのを見ると再び走り始めた。
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