1-43 さっさと出てきなさいよー!

 雷人は廃墟の間を周囲の様子をうかがいながら駆けていた。

 すると、前方におよそ十体の人型を発見した。


 剣を持った人型が円陣を作り、内側に銃を持った個体が二体、前後左右全てを警戒している。


「見つけた。こっちに来てるな……それなら!」


 雷人は空中に段階的に足場を作り出し、順々に跳び移る。

 そのまま、ビルの上へと跳ぶとキョロキョロと辺りを見渡した。


 そして、使えそうな瓦礫がれきを集めて電気でおおい固めると、巨大なかたまりが出来上がった。


「よし、せーの! らあっ!」


 それを人型がビルの前を通り過ぎる瞬間を狙って、上から落とした。

 塊の大きな影に気付いたのか、上を見上げた個体もいたがもう遅い。

 ズドン! という大きな音と共に十体の人型はあっさりとつぶれた。


 雷人はビルから飛び降りて避けた個体がいないか確かめるが、どうやら免れた個体はいなかったみたいだ。


 近くのロボットが音に集まって来ることを見越して雷人はすぐさま走ってその場から離脱した。


「よし、出だしは好調だな。次は向こうだ」


 雷人は道なりに走り、大通りまでやって来た。

 大通りに出る前に、ビルの陰から何もいないかをしっかりと確認する。


 すると一体の大型が大通りの中心にたたずんでいた。

 その個体は右腕にガトリング、左腕に大砲を備えていた。

 あそこからミサイルを打ってくるのだ。


「一体だけ? いつもなら絶対取り巻きの人型がいるはずだけど……」


 不思議に思った雷人は周囲を念入りに見回した。

 だが、やはり何もいない。ロボットだし、はぐれたなんてことは無いと思うが……。


「罠かもしれないが、これはチャンスだな。どうして止まってるのかなんて俺が考えたところで分からないし。とっとと壊させてもらおうか」


 そう言うと、雷人はまたビルの屋上に向かって跳び上がった。


 *****


 フィアは一人、ローブを風にはためかせながら、堂々と道の真ん中を歩いていた。


 その様は可愛らしい顔に反して強者のオーラを感じさせる。

 フィアは大きく息を吸うと、挑発ちょうはつするように声を張り上げた。


「さあ! 隠れないであげてるんだから、出て来なさいよ! 相手をしてあげるわ!」


 フィアは叫びながら歩いているが、出てくるのはロボットばかりだ。

 剣や槍で襲い掛かって来る人型を切り、焼き、凍らせる。


 大型が出て来ても彼女の進撃は止まらない。

 放たれる銃弾は突然空中から現れる鎖に全て受け止められ、無残むざんにも破壊されていく。


 隠れているスナイパーも傷の一つもつけることが出来ずに破壊される。

 一ヶ月以上、幾度いくども相手にしてきたロボットの動きは手に取るように分かる。


 もはや、通常のロボットではフィアにかすり傷一つ付けることさえ出来なくなっていた。一向に動かない状況にフィアは溜め息を吐いた。


「はぁ、拍子ひょうし抜けね。数には驚いたけど、結局それだけじゃないの。学習機能は無いのかしら?」


 守る対象がいればそちらに気を回す必要があるが、既に雷人達の実力はロボット相手には充分だ。


 そして、自分の身だけを案じればいい今の彼女は、いつにも増して強かった。

 この分なら不安要素はあの人影のみ、フィアは相手をあおりつつ進撃していく。


「ねぇ! どこの誰だか知らないけど、怖気おじけづいてないで出て来なさいよ! それともたくさんのロボットに囲まれてないと駄目な臆病者おくびょうものなのかしら?」


 いくら叫んでも出て来るのはロボットばかりだ。


 フィアは毒づくのは好きではないし、このままだとまるで独り言を叫んでいるかのようで正直気が滅入ってきていた。


「あぁもうっ! さっさと出てきなさいよー!」


 彼女の叫びは廃墟の中でむなしく響くばかりだった。

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