1-41 そういうの言っちゃダメよ?

 ルーちゃんとノインちゃんが部屋から出て行ったあと、俺達はソファに座って雑談をしていた。


「ノインちゃん、まだ小さいのに大人な方でしたね」


「そうだね。それに多分僕達よりも強いんだよね? 能力に見た目は関係ないからなぁ」


「そうだな。それに正直見た目だけで言ったら、俺達だって全員強そうじゃないだろ」


「あなた達は見た目通りまだまだだけどね」


「ははは、まぁそうだけど。手厳しいな」


「でも、そうね。皆の予想通りあの二人は凄く強いわよ。何といっても七人しかいないS級社員の内の二人だもの」


「七人の内の二人? そんなに凄いのか? やっぱり見かけには寄らないもんだな。それにしてもS級社員っていうのはどのくらい凄いんだ?」


「名前からしてなんか凄そうっていうのは分かるけどね」


「社員の等級でしょうか? 部長や課長みたいな感じじゃないですか?」


 フィアの言葉に雷人は疑問を口にし、空と唯も続く。

 それを見てフィアは思い出したかのように手を叩いた。


「あぁ、そういえば説明したこと無かったかしら……。この会社、ホーリークレイドルには等級があってね。C級、B級、A級、そしてS級。この四つがあるわ。これはそれぞれ社員の能力を評価して決めてるんだけど、この等級によって受けられる依頼の難易度を分けてるの。雑用程度の依頼ならC級、簡単な駆除依頼とかならB級、危険な戦闘が見込まれるものや護衛依頼とかはA級、A級以下では対処出来ないと判断されたものがS級ね」


「なるほど、依頼を受ける際の指標しひょうにするために分けてるのか。色んな作品に出て来る冒険者ギルドみたいだな」


「確かにそうね。そんな認識でも良いと思うわよ。さっき言った指標はあくまで目安だから絶対じゃないけど。そのS級の依頼を受けられるのがさっきの二人とかマリエルさんなのよ」


「えっ? マリエルさん?」


 フィアの言葉に空が目を丸くした。

 これには雷人と唯も驚いた。


「凄い人だろうとは思っていましたが、まさかそこまでとは」


「普段のマリエルさんを見てたら信じがたいな。一度本気が見てみたいもんだ」


「あはは、止めておいた方が良いわ。今の雷人じゃトラウマになりかねないもの」


 フィアが苦笑いで忠告してくる。

 まぁ、フィアですら手が出ないのにそれは無謀むぼうというものか。

 雷人はいつかマリエルさんに本気を出させてみたいと密かに思った。


「あと、さっきは七人って言ったけど、S級社員で実際に動けるのは六人しかいないわ。さらに言えば、ルーとノインは常にセットだから実質五人ね。その少ない数でS級の依頼を回さないといけないんだもの。そりゃ忙しくもなるわよ」


 フィアが難しそうな顔で言う。

 恐らく自分がS級になれればとでも思っているのだろう。


 雷人はまだS級というものをよく知らないが、フィアが強い事は知っている。

 彼らはその先にいるのだ。その高みはまだ雷人には見えない遥か遠くにあるが、いつかそのくらいに強くなりたいものだ。


 良い目標が出来た、目標は高い程良い。

 その時、唯が疑問を口にした。


「忙しいのなら、どうしてルイルイちゃんとノインちゃんはセットなんですか? 二人そろって初めてS級って事なのでしょうか?」


 確かにそうだ。あの二人の能力が合わさる事で相乗的そうじょうてきに強くなるのだろうか?

 三人がフィアをじっと見つめると、少し困ったような顔をして目線をらした。


「あー、えっと、別に一人一人は弱いとかじゃなくて二人とも一人で十分S級の力を持ってるんだけど……」


「じゃあどうして……」


 空の言葉にフィアはやはり目を逸らしながら答えた。


「ルー一人ひとりじゃ依頼がこなせなくて……」


「?」


 雷人達三人は頭に疑問符を浮かべた。

 S級としての力は十分あるのに依頼がこなせない?


 それはつまり戦闘以外の部分がダメということ……。

 そこまで考えたところでフィアが言った。


「ルーは初対面の人とはまともに話せないから……。ノインがいてギリギリって感じなのよね。S級依頼で依頼人と直接コミュニケーションが取れないと、問題が起きる可能性が高いから一人では行かせられないのよ」


 あー、なるほどな。聞いた瞬間なんとなくそうかなとは思っていたが、恐らく似たような感想を持ったのだろう。空と唯が残念そうな顔をしてルイルイちゃんが消えていった扉の方を見ている。


 しかし、すぐに頭を切り替えたらしく唯が尋ねた。


「え、えっとじゃあ、コミュニケーションだけの問題ならノインちゃんでなくても誰かがサポートするっていうのは……」


 唯の言葉にフィアが複雑そうな表情を浮かべる。


「んー、あの二人は昔からの親友でね。ノインも放っておけないみたいで、何かあっても困るし」


「なるほどな。だとしてもあの二人、小さいのに凄いんだな。尊敬するよ」


「うん、そうだね。僕達より全然若いのに」


 雷人達が何とはなしに扉の方を見つめているとフィアが不思議そうに言った。


「小さいとか若いとか言ってるけど、ノインは年上だからね? それにルーだって私達とそんなに変わらないわ」


「え?」


 フィアの言葉に三人が一斉に疑問符を浮かべた。


 あの見た目で年上? 年が変わらない?

 嘘だろ?


「まぁ、間違えるのも分かるけど、ノインはあなた達の倍は生きてるわ。彼女の種族、狐尾族ルノールが長寿っていうのもあるけど、彼女は特に見た目が幼いのよね。コンプレックス持ってるみたいだから、本人にはそういうの言っちゃダメよ?」


「りょ、了解」


「僕、そういうのは創作の世界だけの話だと思ってたよ……」


「ルーもちょっと理由があって、身体変化メタモルフォーゼの能力を使ってるから、見た目通りとはいかないわね」


身体変化メタモルフォーゼですか? なるほどそれなら確かに分からないですね。理由は……当然聞かない方が良いんですよね? デリケートな話でしょうし」


「うーん、そうね。とは言ってもこの会社にいれば知る機会があると思うけど。そうだ。中身はあれだけど戦闘面は凄いから、今度時間が出来たら稽古けいこつけてもらうといいわ。ルーは雷人と戦闘スタイルがかなり近いからきっと参考になるわよ」


「そうなのか。それはちょっと楽しみだな」


 雷人は笑った。だが、それは今すぐの話じゃない。

 先の話よりも今強くなる事と、邦桜ほうおうを狙う悪者を倒す方法を考えなければならない。


 今は余裕を持って対処出来ているが、まさかずっとこのままなんてことは無いだろう。

 そう考えた矢先、腕時計型端末が振動した。まずは目の前の敵を叩くことに集中だ。

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