1-32 自惚れは大敵

「雷人、残りの敵は何体だったっけ?」


 空の問いに雷人は指を折って数える。


「確か残りは……人型が五と大型が一だな」


「だよねぇ、って事は」


「隠れてるってことだな。周りも警戒しとけよ」


 二人の前に姿を現した大型を守っていたのは槍を持った人型二体のみだった。

 つまりどこかにあと三体いる。


 ロボットとの距離はおよそ二十メートル、完全にガトリングの射程内だ。

 近付くためにはあれをどうにかしなければならない。


「よし空、とりあえず突っ込んで大型にターゲットにされた方が全力回避。その隙にあの二体をやっちゃうのはどうだ?」


「あはは、すっごい単純だね。でも僕達は策士さくしでも無いし、このままでいるわけにもいかないし、やるしかないかぁ……」


 二人は大型がガトリングをこっちに向けた事を確認するとお互いに顔を見合わせ、一斉に走り出した。果たしてガトリングが狙ったのは……雷人だった。


「こっちに来たか。よっしゃ、やってやる!」


 雷人は空から射線が離れるように、斜めに走って銃弾をかわしつつ駆けた。

 何発かかわしきれなかったが、空中に作り出しておいた盾で数発ならば防ぐ事が出来た。


「よし、やれる。空! そっちは任せたぞ!」


「うん!」


 反対側から走り込んだ空が突き出された槍をギリギリでかわし、蹴りを放った。

 しかし、あと一歩という所で躱された。完全に当てたと思っていた空は目を見開いて距離をとる。


「あれ!? ごめん! こいつらの動きさっきの奴らよりも速いよ! ちょっと時間が掛かるかも!」


「くっ! そんなに甘くは無いかっ! 分かった、こっちもなるべく援護する!」


 雷人はギリギリの所で銃弾をやり過ごしながらも電撃を飛ばして空をサポートする。

 止まるな。動き続けろ。止まらなければ、負けない!


 盾をすり抜けた弾丸で腕や顔に銃弾のかすり傷を作りながらも避け続けた。

 腕が、顔が、足が、脇腹が、傷が熱い。これが命を懸けた戦闘か!


 雷人は増えていく傷に恐怖を覚えながらも、自らをふるい立たせ、何とかしのいでいた。そして、声が聞こえた。


「やった、両方倒したよ!」


 その時、不意に銃弾の雨が止んだ。弾を打ち尽くしたのか?

 目の前の危機が一時的にとはいえ無くなったこの瞬間、ほんの一瞬気が緩んでしまった。


「うあっ!」


 その隙間に入り込むかのようにビルの陰から人型が現れる。

 側面から槍を突き出され、槍は雷人の足をかすめた。


 咄嗟とっさに電撃で反撃し撃退するが、その背後にいたもう一体におどり掛かられた。

 体勢を崩してしまっていた雷人は地面に倒され、そのまま馬乗りにされてしまった。


「くっ! このっ! こいつっ!」


 マウントを取られてしまいパニックになった雷人は何とか槍を弾き飛ばしたが、依然として殴り掛かってくるその拳を防ぐので精一杯だった。


「雷人! このっ、そこから離れろっ!」


 走ってきた空が落ちていた槍を拾って人型を貫いた。

 それによって、乗っていたロボットが動かなくなる。


「はぁっはぁっはぁ……助かった。空……あっ……」


「しまっ……」


 しかし、雷人は空の向こうでガトリングが火を噴くのを見た。

 今の雷人ならば数発の弾丸は防げるが、それだけだ。防ぎ切る事など到底出来ない。


 そして、数十発もの銃弾にさらされて煙が巻き上がった。

 雷人はまたしても犯してしまった失敗に歯噛みした。また、空を巻き込んで……あれ? 痛くない?


 煙が晴れると雷人達の前には巨大な氷塊ひょうかいがあった。

 氷塊は銃弾を防いだだけで無く、完全に巨大ロボットを氷漬けにしていた。


「これは……」


 ふと足音に気付きそちらを見ると、案の定フィアと唯がこちらに向かって歩いて来るところだった。


「ありがとな。また、助けられた」


「たった二日の特訓で急に変われるわけがないでしょ? 自惚うぬぼれは大敵よ」


「あはは、手厳しいね……でも助かったよ。ありがとうね」


 フィアは難しい表情をしていたが、溜め息を吐くとにっこりと笑った。


「生きてれば十分よ。この反省を生かすためにまた特訓ね♪」


「は……はい」


 この時、誰も気付いていなかったが、まだ残っていた一体。

 銃を持った個体が何者かに撃ち抜かれていた。


 唯が胸に手を当ててほっと溜め息を吐いた。


「もちろんあなたもよ? 唯?」


「はい、よろしくお願いします。フィアさん」


 フィアの言葉に唯は柔らかい笑みを浮かべて答えた。


「んっ、それじゃあ皆帰るわよ。ちょっと休んだら特訓だからね」


 少しおどかすように言ったのだが、唯の素直な反応にフィアは少し目を丸くしてそっぽを向いて歩きだした。


 さて、今回は何とかなったが次もなんとかなる保証はどこにもない。

 雷人は自分の未熟さを改めて感じ、早く強くならなければと心に刻むのだった。

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