1-31 高いですぅぅ!

 雷人達がロボット達を発見した頃、フィアと唯もまたロボットと遭遇そうぐうしていた。


「大型一と人型五……か。……また分かれたのね、面倒な奴らだわ。数に任せて一気に来ればいいのに」


「さ、さすがに全部一気に来たら危ないんじゃないでしょうか。いくらフィアさんが強いといっても数は個の力をくつがえす充分な力ですし」


「……何かさっきより弱気になってる?」


 フィアの言葉に唯は慌ててブンブンと首を振る。


「違います! 違います! あくまで! 一般的な話です!」


「……まぁいいわ。不安だろうけど安心しなさい」


 その時、前方にいる巨大ロボットがガトリングの銃口をフィア達へと向けて放つ。

 地面のアスファルトを穿うが弾痕だんこんがみるみるうちに迫って来た。


 はひぃと悲鳴を上げ体を抱く唯であったが、一方でフィアは涼しい顔をしていた。


「私の方が強いわ」


 ガガガガと大きな音を立て掃射された弾丸はしかし、一発たりともフィア達を傷つけられなかった。いつの間にか十数本もの鎖が空中に現れ、弾丸を全て受け止めていたのだ。


「さぁ、反撃開始よ!」



 *****


「す……凄いです」


「ざっとこんなものね。全く、数が多いだけなんだから」


 唯は目の前で起きた出来事に呆然ぼうぜんとするしかなかった。

 まさに圧倒的、ただこの一言に尽きた。

 

 剣や槍を持った人型は炎で焼き払われたり、氷漬けにされた。

 辛うじて切り掛かってきた個体も簡単に防がれてそのまま真っ二つだ。


 仲間の危機を察知し援軍に来たらしき残りも容易く薙ぎ払われ、二体いた大型も片方は氷漬け、もう片方は鎖で持ち上げられて一瞬にして焼き払われた。


 陰から狙撃を狙っていたらしき個体も鎖で上空に吊るし上げられた後、地面に叩きつけられて動かなくなった。


 なにより、この戦闘の間流れ弾に当たらぬように唯の周りは常に鎖に守られていたのだ。

 全てを並行で行う事の難しさは想像に難くない。


 果たして私は彼女のように強くなれるのだろうか?

 いや、強くならなければならないのだ。これから先、何があっても乗り越えられるように……。


 そんな事を考えているとフィアがそばに来て、「ちょっとごめんね」と言いながら唯を持ち上げた。


「へっ? きゃあ!」


 背中とひざを支えるこの形、これはまさしく全女性の夢、お姫様抱っこである。

 まさか初めてが男の子ではなく女の子にされる事になろうとは……。


 そんな事を考えたのも束の間、風が吹き抜けた。

 どうやら素早く壁を蹴って駆け上がっているらしく、景色が流れていく。


「ひゃあああああああああああ!?」


 そして、気付くと抱っこされたままビルの上を跳んでいた。

 浮遊感でお腹がふわっとし、視界の端に空と流れていくビル群が見える。


「ちょっ、待って下さっ! 高いですぅぅ!」


「悪いけど我慢してね。思ったよりも時間掛かっちゃったから、雷人達の方が心配だわ」


「ちょちょちょ、なんで転移しないんですかぁぁ!?」


「あれは座標設定の必要があるから時間が掛かるのよ。このぐらいの距離なら跳んで行った方が速いわ。安心して、落としたりしないから」


「ば、場所は分かってるんですか?」


「大体の場所は分かってるし、探査用の指輪スキルリング……道具ね。私はそれを持ってるから探せるわ。……うん、あっちね。飛ばすわよ! しっかりつかまってて!」


「はひぃぃぃぃぃ!」


 フィアがスナイパーをいとも簡単に排除した理由になるほどと思いながら、唯は涙目でフィアに全力で抱き着いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る