1-30 訓練の成果

 走り始めて約八分、地面を伝ってくる振動に空と雷人は足を止め、近くの廃墟の陰に身を隠した。すると先にある廃ビルの陰から六体程の人型が姿を現した。


「六体? 残りはどこに行ったんだろう」


「前回は廃ビルに潜んで狙撃してきた奴もいたからな。隠れてる可能性が高い……」


 六体は円陣を組みながらゆっくりとこちらに向かってくる。

 装備は全員剣だ。


「バラバラに来るんじゃなくてちゃんと連携してるんだね……どうする?」


「隠れていても仕方ないからな。狙撃に気を付けつつ速攻で叩いて逃げる。ヒットアンドアウェイで行くのが良いんじゃないか? 素早く動いてれば撃たれても避けられるだろ」


「そうだね。じゃあもう少し引き付けてからかな」


「……念のため俺が道の反対側に回り込んで仕掛けるから、空は相手の陣形が乱れた所を攻めてくれ。幸いまだ大型は来てないみたいだな。今のうちに数を減らそう」


「分かった。気を付けてね」


「そっちもな……っと忘れてた。換装!」


 雷人の体が声と共に淡い光に包まれ、青と白を基調とした和服風の戦闘服姿に変わる。


 それを見て空も慌てて「換装」と唱えると黒いグローブを手にはめて、黒と赤の入り乱れた羽織を纏った姿に変わった。


「あはは、慣れてないから忘れちゃうね」


「そうだな。俺達はまだ慣れてない。ちょっとした事が命取りだ。慎重に行くぞ」


 そう言って手を振りつつ走り出し、気付かれないように大回りしながら大通りを挟んで反対側のビルの陰に行き、身を潜める。


 空の方を見てタイミングをジェスチャーで伝えようとすると空が驚いた顔で上を指差した。それを見て危険を感じた雷人は前方の大通りへと転がりながら飛び出した。


 次の瞬間、響く金属音。

 見るとさっきまでいた位置に人型が剣を振り下ろしていた。

 ビルから飛び降りて来たのか……!


「上にいたのか……くそ、見つかった」


 飛び出してきた雷人に反応して先程の六体が円陣を崩して雷人に向き直る。


「空、回り込んで後ろ側から頼む!」


「でも雷人が!」


「俺なら大丈夫だ。ただ心配するなら急いでくれっ!」


 切り掛かって来た先程の人型の剣を異次元収納から属性刀を取り出して受け止める。


 この属性刀はウルガスさんから貰ったホーリークレイドルの基本装備の一つで、その名の通り能力による属性付与がしやすいように作られた刀らしい。


 属性付与と言われてもよく分からないが、以前フィアが炎をまとわせていたし、俺の場合は電流を流す感じだろう。


 特訓の甲斐かいあってか、敵のロボットの動きは前回と比べてゆっくりに感じる。

 相手の剣を弾き、そのまま空いた胴体に蹴りを放つ。


「らぁっ! これでどうだっ!」


 宙に浮いた所に電撃を浴びせると人型は煙を吐き、動作を停止した。


「ふぅ、一体一体は大したことないな。それに……特訓の成果が出たみたいだ。行くぞ!」


 叫ぶと同時に走り出し、こちらへ向かって走って来る六体の内の先頭に切り掛かる。

 属性刀と剣がぶつかり合い相手の剣を弾くが、その間に追加の二体に挟まれる形で攻撃され、後ろへと飛び下がった。


 敵の攻撃を避けながらも電撃を飛ばして攻撃するが、残念ながらそれは剣で防がれてしまった。


「真正面からじゃ防がれるか、だが」


 特訓の成果が出たようで六体の動きは前に戦った時に比べてとてもゆっくりに見える。

 これならそう簡単にやられはしない。


 攻撃をかわされた二体はすぐにこちらに向き直ると追撃を仕掛けてきたが、動きはしっかり見えている。


 縦に振り降ろされた剣を左に躱し、剣を持つ腕を切り飛ばす。

 そして、体勢の崩れた所を足の裏で思いっきり蹴飛ばし、もう一体も巻き込んで転ばせた。


「これでどうだ!」


 雷人は転ばせた二体に手をかざし電撃を全力で放つ。

 すると二体とも煙を吐き出し動かなくなった。


「残り四体!」


「いや二体だよ!」


 見ると先頭の二体がやられたのを見て雷人を囲もうと動き出したロボットの内、二体の頭を空が殴りつけて吹っ飛ばしていた。普段の空を知る雷人としては驚きの光景である。


「特訓は順調そうだな」


「まだ加減が難しいけどね。この程度の相手ならなんとか出来そうだよ」


「でもまだ、甘いぞ!」


「うわっ!」


 雷人は頭を飛ばされながらも立ち上がり、空に襲い掛かってきたロボットの胴体を両断した。遅れて立ち上がったもう一体を空が蹴りつけて壁に叩きつける。


「そっか、人型だからって頭を飛ばせばいいってわけじゃないんだ……」


「油断するなよ。とりあえず残り二体を片付けるぞ」


 雷人と空が残り二体のロボットとの距離をじりじりと詰め、同時に襲い掛かって来た二体をそれぞれ横に跳んで躱し、二人で二体のロボットを挟み込むようにして殴りつけた。


 動きが完全に止まった所におまけとばかりに電撃を放ち、動かなくなった事を確認する。


「ふぅ、順調だな。それにしても、たった二日しかなかったのに随分と強くなったな」


「雷人も前より余裕そうだし、フィアさんの特訓の成果が出てるね。でも、雷人にばっかり良い恰好はさせないよ? 僕だってこれからまだまだ強くなるんだからね」


「頼もしいな。まさに鬼に金棒だ……ってうわっ!?」


 二人がお互いの特訓の成果を確かめ合っていると、不意に地面が揺れ危うく転びそうになる。


 地面の微細な振動と共に巨大なキャタピラの駆動音が聞こえる。

 二人の頭に先日の光景がよみがえった。


「雷人、これって……」


「あぁ、来たみたいだな。ここからが本番だ。気合い入れろよ!」


 そして、二人の視線の先にあるビルの陰から巨大なロボットが姿を現した。

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