1-24 生命力

 空は雷人達と別れてマリエルさんと一緒に別の部屋に来ていた。


 訓練をするとは言っても、空の使える能力は戦闘向きではない。

 とりあえず、さっきウルガスさんから貰った身体強化の指輪スキルリングを使えるようにするのが先決だろう。


 空は指輪スキルリングを指にめてマリエルさんの前に立った。


 第一印象として、マリエルさんはどこかのほほんとしているイメージがあるけど、あのフィアさんの師匠だと聞いている。という事はもちろん彼女よりも強いのだろう。


 僕は運が良い。

 雷人に追いつくためにはより早く強くなる必要があるのだから、教え慣れている人に教えてもらうのが一番に決まっている。


「それじゃあ早速始めるかな。身体づくりの前に、まずは指輪スキルリングの使い方から行ってみよー」


「はい! 宜しくお願いします!」


 随分ずいぶんと軽い調子だが、教えてもらう身としては礼儀はくすべきである。

 大きな声で答えて頭を下げる。


「うんよろしい。それじゃあ、まずは原理からかな。空君は能力をどうやって使ってるか分かるかな?」


「えっと、何て言うか。体の内にあるエネルギーを外に出すって感じでしょうか?」


 空の答えにマリエルさんはニコッと微笑むと顔の横で親指と人差し指で丸を作って見せる。


「うん、大体合ってるかな。宇宙の生きとし生けるものにはね。生命力ってものがあるの。名前で分かると思うけど、生きるために必要なエネルギーね。これが減ると人は疲れを感じるし、眠たくなっちゃうかな」


「なるほど、つまりそれを消費して能力を使ってるわけですね?」


「そうそう、物分かりが良いかな。ちなみに私達はこれをアニマって呼ぶんだけどね。これを能力のエネルギーに変換して、能力を使ってるかな」


「じゃあ、まずはそれをる練習とかですか?」


「多分、それについてはもう大丈夫かな? まるっきり初めてならともかく、普段から能力を使ってるなら問題ないはずかな」


「えっと、僕は普段からってほどには使ってないんですけど」


「そうなの? じゃあ、これからは普段から使うように意識するといいかな。生き物って一度に使用出来る生命力アニマの量に限界があるのよね。普段から使ってれば少しずつその限界値を引き延ばせるかな」


「限界値……、ちなみにその一度に使える限界まで使ったらどうなるんですか?」


「基本的には意識を失うと思うけど、それを超えて使ったら下手をすれば死んじゃうんじゃないかな?」


「え、使い過ぎると死んじゃうんですか!?」


「うん。生み出せるはずの生命力アニマの総量とは関係ないから注意が必要かな。とはいえ、生命力アニマが回復するよりも早く使い切らなければいいだけだから大丈夫かなぁ」


「……かなり重大な事実だと思うんですけど、マリエルさん、結構軽く言いますね」


「うーん、だってさ。それを気にして能力使うのをしぶって、殺されちゃったりしたら本末転倒でしょ? そしたら気にするだけ無駄かなぁ」


「それは……まぁそうですけど。うーん、そうならないように普段から使うしかないですかね……。よしっ」


 空は気付けとばかりに両手でほほを叩いた。


 どのみち雷人を手伝う事を止めるつもりはない。

 きたえなければ、能力を使い過ぎる云々うんぬんの前に死ぬことになるだろう。


「よっし、それじゃあ始めるかな。まずは、指輪スキルリングに力を込めてみて? いつも能力を使ってる時みたいな感じかな。指輪スキルリングが体の一部になったみたいなイメージで。生命力アニマが……いや、血が全身を流れてくようなイメージをするのが最初はいいかな?」


「血が流れるようなイメージ……」


 イメージしてみると自分の中を流れている何かが指輪スキルリングに吸い込まれていくような感じがして、なんだか体が軽く感じられた。


 全身に力がみなぎっていくのを感じる。


「……凄い」


「ん。飲み込みが早くて大変よろしい。それじゃあ、軽―く動いてみよっか」


「はい。よっ……ってあああああぁぁぁ!」


 普通にジャンプしただけのつもりがかなり高く跳び上がっている。


 五メートルくらいは跳んでいるだろうか?

 一瞬の浮遊感が失われ、重力によって地面に引き付けられる。


 ストっと軽やかに着地すろと、自分の体を眺めた。

 あの高さから落ちたらあるはずの痛みも全然無い。


 顔を上げるとマリエルさんが微笑ほほえんでいた。


「凄いでしょ? ウルガスの作る物は一級品かな」


「はい……なんていうか力がみなぎって、体もかなり丈夫になってるし、まるで自分が自分じゃなくなったみたいです」


 身体能力強化。

 それがどんなものなのかは理解していたし、実際に使えばどんな感じなのかの想像も難しくない。


 そんなシンプルな能力。

 しかし、実際に使ってみるとそんなものでは無かった。

 これは……。


「自分が自分じゃない……か。うんそうだね。その認識は間違いじゃないかな。この力を使ってる時と使ってない時じゃ世界が違って見えるよね。よし! それじゃあ、違う自分になってるんだと思おう!」


「……はい?」


 空はマリエルさんが何を言っているのか分からなかった。

 自分が自分じゃ無くなったみたいというのは、あくまでもそう思うくらいに変わったという意味でしかない。


 当たり前だが実際に自分が別の何かに変わっているわけではないのだ。

 違う自分になっていると思うというのは一体どういう事なのだろうか?


 頭をひねって……実際に首を傾げて考えてみるが分からない。

 それを見てマリエルさんは笑っていた。


「混乱してるみたいだね? じゃあ説明するかな。空君は自分の能力があるよね? それを使う時、一体何を考えてるのかな?」


「えっ? えっと、傷がふさがるような、元に戻るような、そんな事を考えてます……かね」


「うんうん、大抵の場合は自然に出来ちゃってるからなかなか気付けないかな。能力を使う時は使った後の自分、周りの状況、もしくは相手をイメージしてるかな。周りを凍らせるなら凍らせるイメージ、身体強化するなら自分が強くなるイメージ……って感じかな」


「確かに能力を使う時には少なからずイメージしてましたけど……そういえばフィアさんもそんな事を言っていたような?」


 マリエルさんは服を内側から盛り上げているそれをさらに強調させるように胸を張り、自慢気に答えた。目のやり場に困る……。


「イメージは大切だよ? 実は能力の起源は宗教にあると言われているかな!」


「……はい?」


 突然話がぶっ飛んで付いていけなかった空の頭には疑問符が飛び交うのだった。

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