1-25 イメージの重要性

「宗教? ええっと……いきなり話が飛んで意味が分からないんですが」


 空の言葉にマリエルさんは左手を腰に当て、右手の人差し指をチッチッチと振る。


「まあまあ、急くな急くな、かな。とりあえず宗教がどんなものかは分かるかな?」


「なんとなくなら……こう……超常的なものをあがめるとか、そんな感じですよね?」


 空の言葉にマリエルさんが頷く。


「うんうん、そうだね。教えだったり、神様だったり、何かを信じる事かな。宇宙でもいろんな星にいろんな宗教が点在していてね。これはまぁ当たり前の事なんだけど。実は一つだけ宇宙で広く信仰されている宗教があるかな」


「宇宙で? それは確かに凄いですけど、それに能力と何の関係が?」


「その宗教、クレア―レ教って言うんだけどね。宇宙で一番最初に確認された能力者はクレア―レ教の信徒だったと言われているかな。まさに神が与えた奇跡きせきって奴だよね」


 それを聞いて空は胡散臭うさんくさいものを見る目でマリエルさんを見つめる。


「え……マリエルさんって宗教にはまってる人だったんですね」


「えっ? あっ! 勘違いは困るかな! 別にクレア―レ教に入ろうとかって勧誘するわけじゃないし、そもそも私は信徒じゃないかな!」


「そうなんですか……?」


 マリエルさんは未だにいぶかしげに見ている空に続きを聞けと促す。


「とにかく! 能力はそのクレア―レ教があがめてる唯一神のクレアが与えてくれたものって言われてるかな」


「言われてるって、それ本当なんですか?」


 相変わらずいぶかしげな表情の空にマリエルさんは自信ありますとばかりに胸を張り、人差し指を上に立てて説明する。


「本当かな。少なくとも経験則として、信じる事で力が大きくなる事は知られてるかな。つまり自分は出来る、その現象は起きるって信じるって事。クレアを信じろって事では決してないかな!」


「……つまりそれがイメージするっていうことですか」


 ようやく空がいぶかしげな表情を止めたことで、ほっと息をつくマリエルさん。


「そういう事かな。思い込みも信じてるのと同じだからね。自分がその現象を起こしているってより明確なイメージをする。とりあえずはそれさえ知っていれば何とかなるから、別人のように強くなった自分をイメージして、力をコントロールすることかな。ファイト、ファイト!」


 空は自分の手を見つめ、握って開いてを繰り返した。


 この力をものに出来れば自分も邦桜ほうおう脅威きょういに立ち向かう事が出来る。

 そう考えただけで武者震むしゃぶるいが止まらなかった。


 ただ見ているだけの自分とは決別する。

 決意を固め空は顔を上げた。


「分かりました。訓練をお願いします!」


 *****


 汗が凄い。

 全く動いていなかったのに汗がどんどん出てくる。


 雷人は結局あれから一時間もの間斬撃ざんげきびせられ続けていた。


 確かに最後の方は少し見えるようになってきてはいたけど、果たしてそれは俺の成長なのか? フィアが疲れてきただけじゃないのか?


 はなはだ疑問ではあったが、終わった今としてはどちらでも良かった。

 生きている。これをここまで実感したのは生まれて初めてだ。


 訓練中に生命力アニマの話を聞いたが、この道に進むと決めた以上は自分の命をける事は覚悟している。


 そのつもりだが、実際に命の危機にさらされるとやはりせいへの欲望がちらついてしまう……。早く強くならなければと一層強く思うのだった。


 さて、雷人は今、休憩ということで地面に大の字で寝転がっていた。すると、視界に影が差した。


 誰かが覗き込んでいるのだ。

 まぁこの場には俺達二人しかいないのだが……。


「お疲れ様。ちゃんと水分取りなさい? 汗がすごいわよ?」


 フィアはそう言うとペットボトルに入った水を差し出してきた。雷人はそれを受け取り、ごくごくっと勢いよく飲み込む。


 乾いていたのどうるおい、全身に染み渡る。まさに生き返ったといった感じだった。


「……もしかして、休憩の後もあれをやるのか……?」


 恐る恐る上目遣いでフィアに尋ねた。

 こんな事を続けていたら戦う前に死んでしまう。


 するとフィアはバイバイとするかのように手を左右に振った。


「まさかぁ」


「そっ、そうだよな。こんなことしてたら命が幾つあっても……」


 フィアの反応にほっと安心した雷人だったが、その喜びは一瞬で消え去った。


「さすがに私の方がもたないわ。訓練中に話したように能力っていうのはイメージと生命力アニマが大事だから、常に明確にイメージ出来るようにしながら私と組み手をしましょ。まずは身体強化の底上げをしないと話にならないから。あとは交互に繰り返しね」


 雷人は完全に笑顔のまま硬直していた。


「繰り返しって事はつまり……」


「さっ、時間は待ってくれないんだから、そろそろ組手を始めるわよ! 今回は私からは攻撃しないから遠慮えんりょせずに掛かってきなさい!」


 雷人は穏やかな笑みを顔に張り付け、心の中で「嫌だあああぁぁぁ!」と全力で叫ぶのだった。

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