1-13 テストの結果

 目が覚めるとそこはカプセルの中だった。

 先程の戦いのことを思い出しながら頭に手を当てる。


 フィアは恐らく本気など出していなかっただろう。

 それに対して全力で挑んだ結果、敗れた。


 例えあの時刃を止めていなかったとしても、刃が彼女を貫く前に俺を氷漬けにする事は出来たはずだ。


 聞くまでもない。テストは不合格だろう。

 自分の不甲斐ふがいなさが嫌になるが、最後の一手を止めた事には不思議と後悔は無かった。


 結果は結果だ。既に決まってしまったものを変える事は出来ない。

 今更考えても仕方がないのだ。


 再び燃え上がったこの憧れは一旦冷ますしかないが、努力していれば特殊治安部隊スキルナイトには入れるかもしれない。そうすれば、少しは人助けも出来るだろう。


 また平和な日常の日々に戻り、少しでも力をつけられるよう努力をする事にしよう。

 それが、分相応ぶんそうおうというものだろうからな。


 そう自分を言い聞かせているとカプセルのふたがノックされた。

 カプセルのふたは若干透けているのでノックしている人物も見える、フィアだ。


 何かを指差している。

 その先には何かのボタンがあった。


 ……もしかしてこれ、中からじゃないと開かないのか?


 ボタンを押してふたが開くと雷人は起き上がった。

 するとフィアの顔がかなり近くにあり驚いてしまう。


「わっと!」


「やっと出て来たわね。全然出て来ないから何かあったのかと思って心配したじゃないの」


「悪い、心配してくれるんだな」


 照れくさそうに笑うとフィアは雷人の手を握り、引っ張り起こしてカプセルの外に連れ出した。


「当り前じゃないの。私ってそんなに薄情に見えるかしら?」


「いや、全然見えないけどさ」


「お疲れ様かな。雷人君思ったよりも根性があって驚いたかな」


「お兄さんお疲れ様です。もっとダメダメかと思ってましたけど、結構やりますね」


 観覧席から戻って来た二人の歯に絹着きぬきせぬ物言いに、俺は苦笑いした。


 しかし、フロラシオンには能力を使える人すらいないと思われていたのだから、まぁそんなものなのだろう。


「はは、ありがとう。でも結局は負けたからな。くやしいけど大人しく諦めるよ」


「えっ?」


「えっ?」


 雷人の言葉に三人の声が重なり、雷人も疑問の声を上げた。


「何言ってるのよ……。あの勝負は私が負けたのよ? 降参の合図したじゃない」


「そうだね。雷人君はフィアの心臓を捉えていたし、何よりフィアに能力を使わせた時点で君の勝ちかな」


「そうですよね。それにしても、あの最後に跳んだ時どうしたんです? フィアが迎撃げいげきのタイミングを間違えるとは思えませんし。うち、絶対フィアが勝ったと思ったのですけど」


「あー、えっと、あれは空中に足場を作ったんだ。それでもう一回ジャンプしてたからタイミングをずらせたんだけど」


 雷人の回答に三人はなるほど、とかそんなこと出来るのかと感心したように頷いている。

 それにしても、俺は負けたと思ってたけど、フィアが能力を使ったから俺の勝ち?


「ということは……」


「私は雷人が今回の件に関わる事を認めるわ。そもそも、私に認めさせる事を条件にしたのであって、私に勝つ事は求めてなかったんだけどね。あー負けちゃったかー」


「新人に負けるなんてフィアもまだまだですね」


「全力でやれば彼にもフォレオにも負けないわよ。えっと、それじゃ宜しくね。やる以上は死なせるつもりは無いから厳しくするわ。覚悟しときなさいね」


 フィアがこちらに向かって手を差し出してくる。握手あくしゅ……だよな?

 どうやら邦桜も宇宙もそれほど慣習は変わらないようだ。


「分かった。これから宜しく」


 まだ実感はかなかったが、俺は彼女の手を握って上下に振った。


 彼女の手は柔らかく温かかった。

 そして、ふとマリエルさんの言葉を思い出した。


 言われてなるようなものではないが、フィアとなら仲良くなれるようなそんな予感がしていた。


「あー、えーっとだな」


「ん? どうしたの?」


「……良かったらなんだが、俺と友達にならないか?」


 雷人の言葉にフィアの体が一瞬硬直し、顔が赤くなる。

 明らかに動揺した様子だった。


 ちょっと大人びて見える所もあるけれど、こういう反応を見ているとやっぱり普通の女の子なんだと可愛らしく見える。


「えっと、駄目か?」


 するとフィアは首を横にぶんぶんと振った。


「だ……駄目なんて言ってないわ。そうね、なってあげる……その……友達に」


 素直ではないけど好意的、という感じだろうか?

 これからの日々がより楽しく騒がしくなるような。そんな予感がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る