1-14 社長と対面

 あれから少し経ち、雷人はフィアとフォレオの父親の部屋へとやって来ていた。

 ちなみに、フォレオとマリエルさんは忙しいらしく次の仕事に向かってしまった。


 さて、一体なぜ二人の父親の部屋に来る事になったのかといえば、彼女達の父親というのがこの会社の社長だったからである。


 まさか社長令嬢だったなんて……とりあえず俺は今回の件に関わる事の許しをもらうためにここへと来ていたのだった。フィアがドアをノックする。


「パパ、ちょっと話があるんだけど入ってもいい? お客さんもいるんだけど」


 フィアは父親の事をパパって呼ぶんだな。などと要らぬ考えが頭を過る。

 中からガタゴトと音が響き、少し待つと思ったよりも若々しい声が返ってきた。


「いいよ、入ってきなさい」


「失礼します」


 中に入ると質素な部屋に社長用であろうデスクと革張りの椅子があった。

壁には鹿に似た動物の剥製はくせいや刀が飾られている。

 何というか、絵に描いたようなザ・社長室という感じだな。


 その革張りの椅子には恐らく三十代くらい? の一人の男性が座っているのだが……スーツにネクタイ、肩には茶色いコートを腕を通さずに羽織っているのはいい。


 ここまでは社長って感じなのだが、顔にはなぜか狐のお面を着けていた。

何というか……何だこれ? 違和感がやばいぞ。


「やぁフィア、今日も仕事お疲れ様。客人というのは君のことかな? 私はロナルド・ライナック。この会社、ホーリークレイドルの社長で、フィアの父親だ。宜しくね」


「……」


 雷人が呆然ぼうぜんと立ち尽くしているとロナルドさんは首を傾げて手をひらひらとさせた。


「あれ? どうしたのかな。もしかして緊張してる? 大丈夫、大丈夫。私は優しくフレンドリーな社長で通っているんだ。だからフランクにいこうか」


 これは何だろう。なんかイメージと全然違う人が出てきた。どうすればいいんだ?

 助けを求めてフィアの方を見ると呆れ顔で見返してきた。


「言いたい事はなんとなく分かるけどあきらめて、この人が社長でパパだから」


 ……よし、もう宇宙人を認めてしまったのだ。

 狐面でフレンドリーな社長のインパクト程度、今更ではないかと自分に言い聞かせる。


「初めまして、俺は成神雷人っていいます。この度は折り入って相談があって来ました」


「ほう。残念だが娘は渡せないな」


「違うわよっ!?」


 フィアはロナルドさんのジョーク? に咄嗟とっさに叫ぶとハッとしたように赤くなって顔を背けてしまった。


 話が光の速さで脱線した……流れを戻すためにゴホンと一回咳払いをする。


「俺はフロラシオンにある邦桜から来まし」


「邦桜!? そういえばどことなく……。いや、失礼。続けて」


 突然雷人の言葉を遮るようにロナルドさんが前のめりに叫び、ハッと我に返ると続きを促した。びっくりした。一体何なんだ。心臓に悪いぞ。


「えっと、今回、邦桜政府からの依頼を御社が引き受けたと聞きました。今日はその邦桜防衛に参加するため、その許可を貰いに来ました」


 俺は必死に丁寧な言葉遣いに努めて何とか許可を得ようとした。

 それに対する返事は簡潔だった。


「構わないよ」


「やはりそうですよね。ですが俺は……え? 今なんて」


「構わないよ。仕事の件はほとんど社員に任せてるからね。フィアがオーケーしたからここに来たんだよね? なら私の答えはオーケーの一言さ。あと堅苦しいのは無しにしよう。社長としてそれはどうなんだって思うだろうけど、そういうの苦手なんだよね」


 何気ない感じでそう言われ、一瞬呆然とするが俺はすぐに頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 社長が軽い感じの人で本当に良かった。

 礼儀とかを求められても全く自信が無いからな


「ところでなんだけど君は邦桜の出身って言ったね? アニメとかは見るのかな?」


 突然の社長の質問になぜそんなことを聞くのか不思議に思いながらも答える。


「は、はぁ。まあ人並みには」


「ほう、じゃあこの会社の社員の服装を見てどう思ったかな? 実は私は邦桜で作られているアニメの大ファンでね。私の趣味で社員にはそういった趣向しゅこうよそおいをさせているんだよ」


 ……そう言えば、夕凪先生が社長はアニメ文化にご執心しゅうしんとか言っていたな。


 その言葉に隣にいるフィアをじっと見る。

 黒いローブにミニスカートなのはなんとなく魔法使いとかに見える。


 シンシアさんとかはそうでも無かったが、フォレオの着物はやけに丈が短かったし、マリエルさんも下が袴だというのに上はお腹が露出ろしゅつしていた。


 なるほどこの人の趣味か。

 雷人はロナルドさんを真っすぐに見つめた。


「可愛らしくて凄く良いと思います」


 気付くと正直な感想を言っていたのだった。

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