1-8 どうしてこうなった?

 さて、部屋に戻ってシンシアさんと二人きりになると少し無言の時間が続いた。

 フィアさんはまだ戻ってこないようだ。


 邦桜の危機とやらについて詳しく聞きたい気持ちはあるが、機密事項だと言われた手前聞くに聞けないもどかしい時間が続く。


 するとシンシアさんが耐えかねたのか突然立ち上がった。


「えっと何か飲み物でも出しますね。コーヒーでいいですか?」


「ありがとうございます。じゃあ、砂糖を二匙ふたさじくらいお願い出来ますか?」


「はい、分かりました」


 シンシアさんが部屋のすみにあるキッチンスペースへ向かって行くと後ろでドアの開く音がした。


 やっと帰って来たのかと思い後ろを見ると、またも例の少女の姿はなく見知らぬ二人の女性が立っていた。


 一人は長く先が少しカールした金色の美しい髪を持つ女性で、頭には羽帽子、腰には服を巻き付けている。

 上半身は膝より下まで隠れる長い外套と大きな胸を隠す服だけでお腹を隠す物が一つも無く、下ははかまを履いていた。


洋風なのか和風なのかいまいち分からないが、一言で言えばコスプレ剣士といった風貌ふうぼうだった。


 ぱっと見は大人っぽい印象を抱かせるが、その瞳は爛々らんらんと輝いており、今にも跳んで来そうな印象を受ける。


 もう一人は俺と変わらぬくらいの年の少女だろうか?

 少々背は低いようだが、左目の泣きぼくろの所為せいか少し大人びた雰囲気も感じられる。


 着ている物は簡素な着物のような服だが、下がかなり短く胸元も少し緩そうな感じで、女性に不慣れな俺としては少し視線のやり場に困る。


 髪は少しだけうねっていて肩ぐらいの長さの髪であり、耳には大きな輪っかのイヤリングがつけられていた。


 一番の特徴は何と言ってもその耳である。

 いやあれは耳なのか?


 どちらかというと人魚とかの耳ヒレのようなイメージだろうか。

 いやもちろん足は普通にあるし人魚では無いのだが。


 俺の趣味とかは置いておいて、一般的に見てもこの二人は可愛い、綺麗の部類だろう。

 フィアさんもシンシアさんもその部類だったし、宇宙人って美人も多いんだろうか?


 そんな事を考えていると二人組の一人、金髪の女性が突然跳びついてきた。

 まさか本当に跳び掛かって来るとはっ……!


「うわっ、ちょっ!」


 金髪の女性はそのまま俺を押し倒して地面に倒れ込んだ。

 目の前がその顔と長い髪で一杯になり俺の頭は真っ白になった。


「君は誰かな? 新入り君かな? 大丈夫だよー、マリエルお姉さんが全部一から教えてあげるからね」


「ちょちょちょちょ! ちょっと!? 何やってるんですかマリエルさん!? ストップストーップ!!」


 音を聞きつけたシンシアさんが叫びながら走ってきて、マリエルさんを俺の上から引っぺがした。

 た……助かった……。


 シンシアさんが何とか止めてくれているのを見ながらドキドキしている胸を撫で下ろし、何とか心を落ち着けようとする。


 そうしていると、もう一人の少女がやって来てこっちをのぞき込んだ。

 俺がびくっとしながらそちらを見ると、少女は俺の顔の近くに手を持ってきて、落ち着いた様子で尋ねて来る。


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。うちはマリエル姉さんみたいに初対面の人にスキンシップ取りに行ったりはしませんから。それで、お兄さんは一体誰なんです?」


 どうやら、こっちの人はまともな人のようで良かった。

 俺は安堵あんどし手を借りて立ち上がると、その時またもやドアが開いた。


 今度は誰かと思いそちらを見ると、治療が終わったらしきフィアさんが「お待たせー」と言いながら入って来たところだった。


 そして、数歩歩くと棒立ちになる。

 今の惨状さんじょうを見たからだろう。


 何があったのか想像出来たのか、顔を真っ赤にして叫んだ。


「何してるのかな!? マリエル姉さん!」


 フィアさんがそう叫びこちらを見ると、何を思ったのか着物の少女が俺の腕に自分の腕を回してピタッと引っ付いてきた。


 えと……あの……胸が当たってるんですけど?

 腕に伝わる暖かく柔らかい感触にどうしても意識が持っていかれてしまう。


 それを見るとフィアさんが叫んだ。


「どうしてこうなるのよー!」


 それは俺も教えて欲しかった。

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