1-7 宇宙人の存在

「え!? そこからですか!?」


 俺の言葉にシンシアさんは驚いた表情をする。


「俺は宇宙人を見た事がないので」


「宇宙人なら目の前にいますけど……」


 そう言って自分を指差しているが、見た目は特に俺達と変わらない。

 宇宙人ってもっとこう、グレイみたいに特徴的な見た目とかじゃないのか?


「うーん、俺達と変わらない人にしか見えないんですよね」


 いまいち信じがたい、もっと宇宙人だと確信出来る証拠とかないんだろうか?

 俺がじろじろと見ていると、いぶかしげな表情をしたシンシアさんが俺の顔をうかがう様にしながら尋ねてきた。


「失礼を承知で申し上げますが、どちらのご出身で……?」


 うーん、俺はこの手の話はあまり信じていないが、シンシアさんの反応は自然に見えるんだよな。やっぱりこれってマジな話なのか? だとしたら今の状況かなり凄いぞ。


 ……とりあえずマジな話である可能性を考慮こうりょしつつ、話を合わせるか。


邦桜ほうおうです」


 俺がそう答えるとシンシアさんは微妙な笑顔のまま石にでもなったかのように動きを止めた。


 少しすると、どこぞのおばちゃんのように手をひらひらと動かし、何を馬鹿なといった感じで尋ねてくる。


「またまたー、フロラシオンの方が能力を使えるわけ無いじゃないですか。フロラシオンは能力禁止特星になってるんですからね?」


 ……また初耳な単語が出てきた。

 仕方が無いのだろうが、情報過多が過ぎるぞ。


「何となくは分かりますけど、その能力禁止……というのは何ですか?」


とぼけても駄目ですよー? 能力を発現している者のいない星では、もちろん能力は周知されていないですから。パニックや宗教の元になりますし、力が無いって事は自衛力が無いって事でもあります。だから宇宙警察ポリヴエルが法をいて、該当の星では能力を使わないように取り締まっているんじゃないですか」


 なるほど、そういう事なのか。

 あの子が能力を使ったからとか言って俺に手錠を掛けたのはそれだな? でも……。


「フロラシオンでは邦桜ほうおうだけですけど、二十年くらい前から能力を持っている人は普通にいますよ?」


 俺がそう告げるとシンシアさんはパッと後ろを向き、ブツブツと呟きながら何かを考え込み始めた。そして、再びこちらを向くと自信満々に言い放った。


「あなたの言い分は分かりました。でもちょっと待って下さい。その話をすぐに信じるわけにもいきません。今回の件の依頼主は邦桜政府ですからね。確認をとれば一発で分かってしまいますよ? ふふふふふ」


 うーん、まだ俺が実は宇宙人で嘘を吐いていると疑っているみたいだな。

 それに、なぜかは分からないが邦桜に能力者がいる事を認めたくないらしい。


 誤解が解けるのに時間が掛かりそうだなと思っていると後ろの扉が開き、誰かが中に入ってきた。

 フィアさんが戻ってきたのかと思い振り返るが、そういうわけでは無かった。


「失礼しますよ。遅くなりました。暴れる生徒を帰すのに少々手間取りまして」


 入って来たのは夕凪先生だった。


 ここに来るという事はやはりただの先生では無いのだろう。

 もしシンシアさん達の話が本当なら、邦桜政府の人だったりするのだろうか?


「さて、では何があったのか教えてもらえますか?」


  *****


「なるほどそういう経緯けいいでしたか」


 シンシアさんが夕凪先生に事の経緯を説明すると、先生は得心とくしんいったというように頷きあごに手を添える。


「どうやら誤解があったみたいですね。成神君が能力を使用した事は特に問題ありません。なので今回の件、成神君には特に非はありませんよ」


 先生の言葉にシンシアさんがため息を吐いて項垂うなだれた。

 対する俺は安堵あんどの息を漏らす。


「そうですよね、ありがとうございます。先生」


「いえいえ、しかし成神君。君が今回巻き込まれてしまったこの件ですが、極秘ごくひの案件なんですよ」


 いきなりトーンを落として話し始める先生に背筋に寒気が走る。


「まさか、口封じに俺を消す気ですか!?」


 即座に身構える俺に対して先生は首を横に振る。


「いえいえ、可能な限り内密にお願いしますという事ですよ。まぁ言いふらすようであれば話は別ですが、あなたはそんなに馬鹿ではないでしょう?」


 俺はすぐにぶんぶんと首を縦に振った。


 はは……目が笑ってない。

 そして、先生はふと思い出したように言った。


「そういえば自己紹介がまだでしたね」


「え? 自己紹介ですか?」


 先生はおもむろに立ち上がると、ふところに手を入れ何やら警察手帳のような物を取り出した。


「教師でない事は気付いてるでしょう? 私は宇宙警察ポリヴエル所属の警察官、ユーギナ・ハングウェイと申します。荒事はあまり得意ではありませんので、今は主に事後処理や監督官かんとくかんをしています」


 え! まさかの宇宙警察ポリヴエル!?


 俺は椅子ごと後ろに動こうとし、危うく倒れそうになる。

 しかし、夕凪先生はそんな俺を気にした様子もなく話を続けた。


「それでこの話ですが、今回邦桜に迫る危機に対して邦桜政府は宇宙警察ポリヴエルを頼ってきたわけなんですが、その際に能力者の学校の事が発覚しましてね。その調査のために私が教師として成神君の学校に来たというわけです」


「え、じゃあユーギナさん能力者がいる事を知ってたんですか?」


「えぇ、フロラシオン全体の話ではありませんし、能力禁止特星である事は特に変わりません。ですので、邦桜の能力者と許可を受けた者以外は使用禁止で問題はありませんよ」


「そうですか。でも、知っていたなら報告して下さればよかったのに」


「それについてですがね。こちらの社長には話が通っていたはずなのですが、情報の行き違いでしょうか?」


 それを聞くと納得したようにシンシアさんがまたため息を吐いて項垂うなだれ、手で顔を覆う。


「……うちの社長がすみません」


 すぐに認めたな。珍しい事では無いのだろうか?

 それにしても、夕凪先生まで宇宙警察ポリヴエルを名乗ったとなると、かなり信憑性しんぴょうせいが増してきたな。うん、やっぱりちゃんと確認させてもらおう。


「すみません。話が入って来ないのではっきりさせたいんですけど、やっぱり宇宙人はいるという事でいいんですか? 聞いてる感じ二人とも宇宙人なんでしょうけど、見た目も変わらないし、俺としては信じる証拠が欲しいんですけど」


「……あぁ、邦桜では一般的ではありませんでしたね。シンシアさん、デッキから外を見せてあげたらいかがです?」


「あ、はい。そうですね。すぐに転送します」


 シンシアさんがそう言うと再び視界が光に包まれ、俺は周囲がガラス張りの展望デッキのような場所に立っていた。


 周りには俺達と変わらない見た目の者もいれば、体が卵型だったり以上に大きかったり、尻尾や翼が合ったりと、およそ人ではない見た目の人がちらほらといた。


 そして、ガラスの向こうには見渡す限りの宇宙空間が広がっていた。

 フロラシオンは見えないので、随分と遠いところなんだろうか?


「凄い、ここって宇宙にあったんですね。それに、色んな見た目の人がいるんですね」


「えぇ、そうですね。確かに君達と変わらない見た目の者は多いですが、宇宙にはそうではない者達も数多くいますよ。どうです? こんな一瞬で移動出来る技術もあなた達には無いでしょう?」


 色々と圧倒されるが、ここまでされては流石に信じざるを得ない。

 そうか、宇宙人ってオカルトじゃなかったんだな。それにしても……。


「……何か俺の感性で行くとコスプレみたいな格好の人が多いんですけど、宇宙人ってそういう文化なんですか?」


「いえ、これはここの社長の趣味です」


「え、趣味?」


「そうですよ。ここの社長は邦桜のアニメ文化にご執心しゅうしんだそうですから。と言っても、ここの社長に限らず宇宙人達の間では人気があるみたいですね。多くの人が押し掛けるので、その対応に宇宙警察ポリヴエルが駆り出される始末ですよ。勘弁してもらいたいものですね」


 何だその情報。新事実にちょっとワクワクしてきてたのに少し冷めてしまったじゃないか。


「それでは、説明もしましたので私はこれで失礼しようと思います。送っていきましょうか? 成神君」


「いえ、大丈夫です。フィアさん……彼女にもちゃんとお礼を言って行きたいので、まだ残ります。ありがとうございました」


「そうですか。先程も言いましたがこの話は無闇に口にしないように、常盤ときわ君と朝賀さんは仕方がないので見逃しますが、次はありませんよ?」


「は、はは、分かりました」


「それではシンシアさん。もう一度転送お願いします」


「は、はい! 了解です!」


 先生がそう言うとまた視界が光に包まれる。

 その光の中で先生は微笑みながら手を振っていた。

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