第25話「エピローグ」
『Rouge』事務所。アカネのデスク前でユウイチ、ヒスイ、ユウナの三人が並ぶ。
「この度はありがとう。シライさんとミノワさんの協力のおかげでヤシロジンを倒すことが出来た。本当に感謝しているわ」
「でも……あたしは友達が傷付けられるまで決心付かなかったので」
「それでも、あなたは動いた。話は聞いているわよ。結構噂になってるみたいだけど大丈夫?」
ジンと戦う前にユウイチと学校近辺で暴れていたのでユウナのことは一瞬で広まった。
エンジェルデバイスや制服バッジでは認識阻害が付与されるがユウナは違う。本当に髪と目の色が変わるだけなので意外と分かってしまう。
「大丈夫ですよ。アオとフミにも打ち明けて、謝ったんですけど……なんか普通に受け入れてくれたので。あの二人とユウイチとヒスイが居るので意外と平気かも」
「それは良かったわ。ミノワさんも怖い思いしたでしょう? それにしても良く動けたわね。二人で決めた合図とかあるの?」
「そう言う訳じゃなくて。なんとなくルーン文字の魔石があれば私でも何か出来るんじゃないかって思いまして……」
あの場で起きたことは全部即興だ。まず初めに動いたヒスイにユウイチが気付き、何かするだろうとそれっぽい合図を作った。
ずっと昔から一緒に行動し、人助けを見てきたヒスイだからこそ出来た動きだった。
「ミヨシも戻ってきてくれてありがとう。あなたのおかげでマジマも一皮剥けたし、これからも宜しく頼むわね」
「いえーい! 就活しなくても内定だぜー!」
「良ければシライさんもどうかしら? ミノワさんも裏方で良ければ」
「私で良いのなら是非!」
「あたしはもうちょっと考えます」
堅苦しい話が終わり、ココアやタダシたちも混ざってユウナたちと祝杯を上げる。
アカネは毎回大きな事件を解決した直後にやると言う。
まずは助けられた人たちが居ることと隊員の活躍を祝い、翌日に亡くなってしまった人たちへと手向ける催しをするのだ。
ユウイチはグラスに注がれた飲み物に反射する自分の顔を見つめる。
「どうしたの? 元気がないわね」
「いや、まあ他にも死んじゃった人は居ますけどナカマっちゃんが」
「あぁ、それね。大丈夫よ」
「……大丈夫?」
ユウイチの認識とズレたアカネの語彙。
「あっ……!?」
「あぁ!?」
ヒスイとユウナの声に引っ張られ、ユウイチが首を回す。
なんとそこに立っていたのはユウイチの目の前でアカネの式神に食べられたはずのナカマツノゾミだった。
「蛇神には閉じ込める役割を頼んだのよ。正直治る見込みがなかったから隠しておいたの。ごめんなさいね」
「でもちゃんとニュースでは重体と報道するよう頼んだんじゃぞ?」
「あ、そう言えば父さんは一人が重体って言ってた気がする」
目の前のノゾミは勿論、暴れなかった魔物にされた人たちも元に戻ったらしい。
「シライさん、あの時はごめんなさい。何か訳分かんなくなっちゃって」
「悪いのはヤシロだから気にしないで。でもなんであたしを?」
「あ、あの……それは……そのずっとルックスも良くて何でも出来てミヨシ君と仲良いの羨ましくて……取り柄の天体知識も負けてるって思ったらなんか……でも良く考えるとミノワさんが居るのに勝てるはずないよね」
「……何この公開告白。でも俺とヒスイ、別に、なぁ?」
突然の告白に戸惑いながらヒスイと目を合わせるユウイチ。
「うん。なんかね、あんまりね。私たちってそう言うのじゃないんだよね」
「最強の親友で最強の相棒って感じだよな。付き合いたいとかないもんな」
男女の友情があるかどうかは何時だって語られる話題だが、少なくともユウイチとヒスイは完璧な友情を築けている。
その発言にユウナとノゾミの体がピクっとする。
「「へぇ……そうなんだ……」」
大盛況な事務所の中に突然、なんとも言えない空気が流れ始める。
「え、何この空気」
「ミヨシは罪な男ね」
「ユーイチ……やり手だねこれは」
「……良し! 乾杯!」
「あ、逃げた」
ひと夏のヒーローは最後の最後に逃げるのであった。
ひと夏のヒーロー 絵之空抱月 @tsukine5k
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます