第24話「運命の糸」
「それじゃああいつをぶっ倒すとするか。選定しろ——ヴェルダンディ」
タダシの作戦を飲み込んだユウイチがヴェルダンディのカードを翳す。
ワルキューレでもあるスクルドの時の方がなんとなく戦闘力が上がっているような気がするが、しっくりくるのはやはりヴェルダンディだった。
ジンに向けて銃を構えるタダシ。
ユウイチはヴェルダンディの力で事象を選ぶ。
——自分とユウナの攻撃が命中する事象を。
阿吽の呼吸で振り抜いた二振りの斬撃がジンの両腕を同時に分断する。
そしてジンの回復を待たずにタダシが引き金を引く。
光の弾丸は間違いなくジンに命中した。が、見た目の変化はない。
「……何だこの感覚は!? 何をした!?」
それでも本人には違和感があったらしく謎の感覚に苛立ちが露わになる。
現在、ジンの身に起こっていることを認識出来ているのはユウイチとタダシのみ。
二人の目に映るジンの体からは一本の光の糸が延々と伸びている。タダシが撃ち込んだ運命の糸だ。
三つのカードが揃って初めて使える時女神の真価。それが運命の糸。
ウルズが糸を紡ぎ、ヴェルダンディが長さを選び、最後にスクルドが裁断する。
今、二人に見えている糸は命の運命を表したもの。魔法で作られた不老不死を運命と言う回避しようのない概念で上書きした。
つまり、後はスクルドの力で糸を切ればゲームセット、なのだが。
「スクルドに切り替えろ!」
「……いや、無理。ヴェルダンディを解くと不老不死の影響で糸が伸び続けちまう」
今のユウイチはバイクや車のアクセルをずっとキープしているような状況だ。
当然、乗り物を乗り換えればアクセルのキープは出来なくなる。仮に無限に伸びる糸を切っても意味はない。
「カードパスするからタダシが終わらせろ」
「無理なんだ」
「なんで?」
「いや、なんかウルズが他のカード使うの許してくれないっぽいんだ」
「独占欲強めの彼女か!? あーもう! 俺がなんとかするからタダシとユーナで隙を作ってくれ!」
ユウイチはスクルドのカードを翳し、ルーンカードと同じように槍へ糸を裁断する効果を付与させる。
アクセルをキープしながらのマルチタスク戦闘。
気合を入れて槍を振るうユウイチ。
しかし、ジンもユウイチの槍を喰らったらまずいと感じているのか必死に回避を選ぶ。
終いには翼を生やし、空へと戦場を移す。
「残念だけどあたし、飛べるんだよねっ!」
「俺らもな!」
「だが、空中戦では動ける自由度が違い過ぎるぞ!」
三人で追い掛けるが、地面と比べて三百六十度上下前後左右を自由自在に動き回れる。
タダシの危惧は的中。ジンは海を泳ぐように空を飛び回り、無限の手数で付け入る隙を与えない。
「何か使えそうな魔石余ってねぇのか!?」
「シゲルの魔石がまだ——」
タダシの意識が魔石に吸われた瞬間——ジンが詰める。
「くっ!?」
タダシは紙一重で回避。
しかし、取り出そうとしていた魔石はその衝撃で地面へと雨のように落下してしまう。
追撃を防ぐ為にタダシは銃を乱射。
なんとか糸を切りたいユウイチが呟きながら下を見る。
「おいおい……大事な魔石を……」
そして思わず一人で笑みを作る。
「やれやれ、お前らは俺にばっかり構ってて良いのか?」
「今更、逃げる言い訳でも言うつもり?」
「違うな。人々を守らなくて良いのかと言う話だ!」
ユウナとの口論の途中でジンの全身から多数の武器が生える。剣、槍、矢、とありとあらゆる刃物が一斉に射出。
ジンはそれを繰り返し、町に武器のゲリラ豪雨を浴びせる。
これを狙っていたジンは敢えて逃げるフリをしながら緊急避難場所の頭上まで来ていた。
数人の『Rouge』隊員が居るがそれでも数人。
全員を守り切ることは出来ず、三人の下から悲鳴が湧き上がる。
「ほら見ろ! どれだけ強力な力でも誰も守れない! 人がどんどん死んでいくぞ!」
「まるで俺たちが殺してるみたいに言うんじゃねぇ! 誰がどう見たってお前の所為じゃねぇか!」
武器の雨を弾き飛ばし、致命傷にならない場所は擦りながらもユウイチが突き進む。
刃と化したジンの両腕と火花を散らす。
「お前の事件だってそうだろ! 悪いのはヒグルマで! 父さんはお前の両親を救えなかったんじゃない! お前を救ったんだ!」
「俺だけ助かるなら死んだ方がマシだった!」
「だったら勝手に死ねば良かっただろうが! お前のアホ臭ぇ復讐に関係ない奴ら巻き込みやがって! 何が死んだ方がマシだよ不老不死になんかなってる奴の言う台詞じゃねぇだろ馬鹿か!?」
互いの口と口がくっ付いてしまいそうな至近距離。
運命の糸は目の前なのに届かない。
ユウナとタダシは武器のシャワーから人々を庇い、戦線から離脱している。
「どうしてもお前らみたいなのが許せなくてなぁ! 死んでも死に切れなくなったんだよなぁ!」
「じゃあお前にはここで死に切って貰う」
ユウイチはくるりと後ろ手で槍を一回転。それが合図になった。
あの場で落下する魔石に向かって走るヒスイに気付いたのはユウイチだけ。
相談も何もない即興の合図にヒスイは完璧に応じる。神話などの知識に長けているヒスイが投げたのはシゲルの魔石。
まさかヒスイが動くとは思っていないジンは気付かない。
魔石は丁度ユウイチの背中で効果を発揮——後光のように瞬き、ほんの一瞬だけジンの視界を奪う。
ほんの一瞬、されど一瞬。
ユウイチはジンの背面に回り込み、背中から胸に向かって槍を突き刺した。
「がっ……!?」
「良かったな。地獄でまたヒグルマに会えるぜ」
「ミヨシ……ユウイチぃいいいいいいいいいいいいい!」
ジンの運命の糸は二つに分かたれ、霧散する。
恨みが篭もりに篭もったジンの悲痛な叫び声はやがてピタリと止み、地面に落下した不老不死の体が二度と動くことはなかった。
「はぁ……はぁ……おろ?」
空中で大きく息をするユウイチの視界が眩む。
上下の感覚も分からず、誰かに受け止められる感覚が訪れる。
「ユウイチ! やったね! 痛たたた……」
「怪我が深いんですからあまりはしゃがないで!」
ユウイチの耳にユウナとセブンの声が入ってくる。
「ユウ……お疲れ様。格好良かった」
「今更気付いたのか? 遅ぇよ……」
「だってあんまり身近で見ることないもん」
「それもそうか」
ちゃんと視界に映らない幼馴染との会話を最後にユウイチの意識は深く沈んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます