第12話「ユウイチの長所」


 ユウイチは自分のバイクに跨り、ココアたちの車と並んで現場へ急行。

 魔物が暴れているのはまたもやユウイチの住んでいる地域。思い返せばヒグルマ殺人事件を除き、魔物が暴れる事件は同じ県内でしか起きていない。

 ココアたち車組はパトランプを照らし、サイレンを鳴らす。

 一刻も早く現場に向かいたいのだが、パニックになった人の波はサイレンでも完璧に避けるのは厳しい。

 魔物も姿も見えたところでユウイチたちは車から降り、戦闘体勢。


 「ミヨシ! お前はくれぐれも気を付け——」

 「あっぶねぇ!」


 ユウイチが警告しようとしたマジマの頭を掴んで屈めば頭上スレスレで矢が飛んできた。


 「軍勢の前で背中向けてんじゃねぇよ!」


 怒りながら背の高い建物の上に居た影に向けて適当に銃を撃つ。

 まともに狙っていない銃弾は当たらないが、謎の影は飛翔し、その場を離れた。


 「コッちゃん! 厄介なのが居る!」

 「ドラゴニュートか。任された!」


 空飛ぶドラゴニュートに狙いを定め、人知を超えた速さですっ飛んでいくココア。

 飛行能力持ちにどう戦うのかさっぱり分からないが、ココアなら大丈夫だろうとユウイチは思えた。

 そうして面倒な相手のマッチアップが決まればユウイチに出来るのは目の前に居る人々を救うことだけ。

 見たことのあるオークやゴブリンに加え、ワーウルフにミノタウロス。

 どれもこれも強そうな見た目だが、今のユウイチには戦う力がある。


 「良し! 行くか! 選定しろ——ヴェルダンディ」


 エンジェルデバイスにカードを翳し、変身。

 近場に居たワーウルフに飛び蹴りを浴びせ、それが戦いのゴングになる。

 まだ人の流れがある状態で槍は振り回せず、下手くそな銃を無闇矢鱈に撃つなんてそれこそあり得ない。

 迫る爪の斬撃を避け、下方からワーウルフの顎を右肘で打つ。


 「横からじゃ噛まれそうだもん……なっ!」


 元の位置に戻ってくる顎を追い返すようにもう一回。サマーソルトキックをしながらグリップを取り出し、散弾銃に変化。

 ワーウルフが体勢を立て直すより先に銃口をゼロ距離で突き付け——射撃。


 「これならノーコンでも当たるし、仕留められるぜ!」


 ゼロ距離ショットガン戦法で魔物たちを掻き乱し、とにかく人々の避難を優先する。

 ユウイチたちが魔物を請け負い、セリアが指揮する異世界出身の騎士たちが安全に避難させていく。


 「百均ちゃん! 避難は!?」

 「ああもうココア殿の悪い影響が! 安心してくれ! 避難は完了だ!」

 「じゃあとことんやるぜ!」


 ユウイチは銃を服の中に戻し、エンジェルデバイスを槍に。

 今までの傾向と違い、今回の魔物たちは戦いに慣れているようだった。強化されたユウイチの攻撃を防ぎ、的確に反撃してくる。

 だが、変わったのはユウイチも同じだ。


 「百均ちゃん! ミノタウロス行くぞ!」


 仲間の一人の背後で斧を振り被るミノタウロスの下へ飛び込む。その一振りを槍の長い柄でカット。まるで巨大な石のような重さがのし掛かる。

 パワー型と力比べは相性が悪い。このままだと地面に押し付けられてしまう。が、そこへセリアが切り込んだ。


 「ハァッ!」


 猛々しい掛け声と共に両手で振り抜く斬撃。

 ミノタウロスの丸太みたいな両腕をスッパリと斬り裂き、ユウイチの両腕から重さがふっと消える。

 突然の両腕消失で固まるミノタウロス。

 その首をユウイチの槍の穂先が切り裂く。


 「セブンちゃん、平気か?」

 「助かった。ありがとう!」

 「ユウイチ殿はまさか自分の班員の名前を覚えているのか?」

 「戦闘員の名前は覚えといた方が連携出来ると思ってな。でもまだセリア班だけだぞ」

 「まだ日も浅いのに凄いな……」

 「感心してる場合か! 次だ次!」

 「ごめーん! ドラゴニュートは倒したけど火事になっちゃった!」


 ユウイチたちのところへ戻ってきたココアが謝る。

 ドラゴニュートとの戦闘の余波で火事が起きていた。どれだけの炎を浴びせられたのか既にかなりの規模になっている。

 するとアカネから全員に向けて通信が入った。


 『今、消防隊がそちらに向かってるわ。火災の建物は一箇所だけ?』

 「現状は一箇所だけのようです」


 セリアがアカネの問いに応じる。


 『なら消防隊が到着次第セリア班は消防士が速やかに活動出来るように護衛とサポートを。それ以外は魔物たちを殲滅。出来れば生捕りにしなさい』

 「了解!」「おっけー!」「良し!」


 気合を入れ直したユウイチはココアと抜群のコンビネーションで魔物たちと戦う。

 そんなユウイチの戦い方に驚愕したのはセリアだ。

 驚いたのはユウイチの視野の広さとチームワークの良さ。

 ユウイチは人々の避難が終わってから決して一人で複数人を相手にしていない。タイマンを極力避け、劣勢の仲間を見つければそこへ移動し、数的優位を作って戦っている。

 まだ関わりの薄いメンバーとの連携もだが、何より際立っているのはココアへの信頼。

 時折、肝が冷えるような立ち回りをしたかと思えば、その隙は確実にココアが埋める。

 逆に言えばココアがフリーになる状態ならどれだけの隙を出してもその場で最適な行動をしようとするのだ。

 セリアは戦いながらチラッとマジマを見る。

 マジマは一人で複数人を相手にしている。だからと言って時間稼ぎのヘイト稼ぎでもなく、ルーン魔石と銃、フィジカル、頭、持つ物全てをフルに使って倒していた。


 「タダシ殿とは真逆だな……っ!?」


 その時、セリアの背筋が凍る。

 セリア以外も同様に何かを感じ取り、一点を見る。そこには人型のカマキリが立ち、最も近くに居る戦闘員を見つめていた。


 「セイコ!」


 セリアが叫んだ時にはもう遅く、カマキリはあっという間にセイコの背後へ。


 「させない!」


 セリアが叫ぶより先に動き出していたココアが鎌を蒼い剣で受け止める。

 同じく動き出していたユウイチは複数の敵から目を逸らしていたマジマをカバー。


 「さっきから危ねぇ動きばっかだなお前」

 「ぐっ……その、なんだ……助かった」

 「おろ」


 素直に礼を言われると思わず、目を丸くするユウイチ。


 「不本意だがここを任せる。オレはココアの方に」

 「おいおい待てって! 丁度消防隊が消火活動始めたとこだぞ。まだ魔物は多い。あんなバケモンはコッちゃんに任せときゃ良いんだよ。行くならこっち片付けてからだ」


 ユウイチにとって優先すべきは火事と救命活動。魔物もまだ跋扈している状況でカマキリに戦力を集中させたくない。

 それにあのカマキリは相当強い。ココア一人でなんとかしてくれるならそれが最善だ。


 「アレと真正面からやり合えるの百均ちゃんくらいだぞ」

 「クソッ! こんな時にオレにもデバイスが使えれば……ミヨシ、足だけは引っ張るんじゃないぞ」

 「こっちの台詞だ! 一人でバカスカ突っ込んでくんじゃねぇよ!」

 「一人で複数倒せた方が良い」

 「それで負けたら意味がねぇ。どれだけ自分の危機を減らして戦うかが重要だろ」


 睨み合う二人の耳にアカネからの通信。


 『喧嘩してないでやるべきことをやりなさい』

 「了解です」

 「……お前の所為でたいちょーに怒られちまったじゃんか」

 「ミヨシの所為だろ!」

 「「全く……」」


 声が重なり、お互いに睨み合い、ふいっと同時に顔を背けて走り出す。

 

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