第11話「緊急警報」


 「まさか犯行現場が燃やされるとはね……」


 ユウイチとココアの報告を聞いたアカネはお茶を啜る。

 あの後、ユウイチたちが現場へ戻った時には既に消火が始まっていて、特に被害者や二次災害が起きることもなく鎮火した。

 だが、消防士の話を聞くと通報したのは若い女性で本人もその場に居た。

 つまり、あの老人は目の前の火事もココアの頼みも無視して消えたのだ。


 「下手人にまんまとやられた訳ね」

 「あのおじーちゃん……見つけたら叩き切ってやる」

 「しかしだ。ミヨシもココアもその爺さんの顔は見ているんだろう? ならとっ捕まえるのは難しくないはずだ」


 一旦、パトロールから戻ってきたマジマが言う。

 『Rouge』にあるのは戦う道具だけではない。捜査の為に精巧なモンタージュ写真を作る機械もある。

 顔さえ分かれば特定するのは容易い。


 「ま、素人とココアが組んだにしては大きな一歩じゃないですかね、アカネ隊長」

 「あぁ? 巡回だけで何も情報掴んでねぇ奴が調子乗んな」

 「そーだそーだ! ユーイチは凄いんだぞ! 火事にもいち早く気付くし、ワタシのおっぱいの感触も褒めてくれる!」

 「不可抗力……最高」

 「何の話をしてんだお前らは!」


 嫌味からのスタートをココアの所為で変な方向に捻じ曲げられたマジマ。

 そんな沸騰しそうな脳内を冷ますような口調でアカネが呟く。


 「そう単純なら良いのだけれど」

 「隊長! 照合が終わりました!」


 丁度良いタイミングでモンタージュの照合を頼まれていたセリアがテキパキとした動きで戻ってくる。が、表情が芳しくない。

 皆んなでアカネのデスクに集まり、報告を聞く。


 「ココア殿、ユウイチ殿。この顔で間違いないのは確かなのだな?」


 ユウイチたちの記憶から作った顔写真を見る。照合前と合わせて二度目だ。

 あくまでモンタージュである為、差異はある。それでもあの時の老人そっくりなのは間違いなかった。


 「うん。この顔だよ」

 「間違いないぞ」


 自信満々な二人にセリアは申し訳なさそうに顔を歪める。


 「それがな……こんな顔の人間は居ないらしいんだ」

 「いやいやいや! ないないない! この顔だって!」

 「やっぱこばやんに頼もう! 百均ちゃんじゃ地球人の顔分かんないんだよきっと!」

 「失礼なこと言うな! 異世界人なのはココア殿も一緒だろう!? それと百均ちゃん言うな!」

 「セリア、居ないって言うのはどう言う意味? そのまま?」

 「大体そのままです。この顔に似た人は居ますが……あの時間帯のアリバイは全員ありました。この五人です」


 セリアが顔写真をアカネのデスクに並べる。

 ユウイチとココアはそれらの写真を流し見し、首を振った。流し見程度で分かる。


 「ヒグルマの起こした放火事件の生き残りも全員シロだったよ。ただ、その中でもモリノジンと言う人物だけは行方が分からない。後でも追ったのかのう」

 「三十八個の刃物と謎の老人……行方不明の学生たちと暴れる魔物……分からないことだらけね」


 アカネに続く声はなく、全員が手詰まりの状況に唸る。


 「いや、ここで唸ってても意味ない。コッちゃん! 情報集めに行こうぜ!」

 「賛成! 行こう行こう!」


 まず最初にユウイチが考えることを切り上げ、行動に移る。

 暗くなった雰囲気もココアの元気で能天気な声が事務所に響けば次第に明るさが広がっていく。

 そんなユウイチの行動にアカネが微笑む。

 だが、その笑顔は一瞬で崩れ落ちることになる。


 『緊急です! 魔族の集団が街中で暴動を起こしています! 戦闘員の皆さんは至急現場に向かって下さい! 繰り返します——』

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