第10話『君と歩く帰り道』

 スマホ画面に表示された座標に向かい、僕は全力疾走する。ターゲットは臨港公園を出てすぐの道路上、二足歩行になったカエルのような姿をしていた。

「〈デルタ・チェンジ〉!!」


 走りながら腕輪を光らせ、一瞬で変身する。

 助走は十分、勢いを乗せた一撃を不意打ち気味に叩き込む!

「ガァッ…!」

「デルタマン、ただいま参上!」


 不意打ちのパンチがテスタメントの顔面を捉える。殴り飛ばされた怪物は近くの車に直撃した。

 手応えはあった。けど決定打じゃ無い。

「デで…るたマん…!」

「っ!…なるほどね」


 カエル型テスタメントがニチャリと笑う。短期間中に襲ってきたんだ、それなりに知能があることくらい予想してたよ。

「すー…ふー…」

 深呼吸しながら気持ちを落ち着かせる。やはり〈ステージ2〉のテスタメントを前にすると、腹の底から黒い感情が湧き出てくる。

 以前までの僕なら激情に身を任せていただろう。

 でも今は違う。僕の中には愛美さんの言葉がある。


「…よしっ、やろうか」

「ギエッ!!」

 僕が構えると同時にテスタメントが飛び上がった。10メートルほど飛び上がった後、舌を伸ばして攻撃してくる。僕は小さく横に飛び、舌を回避した。

 ブヨブヨとした見た目に反した硬度を持つ舌が、僕の立っていた場所に突き刺さる。


「にゲルな!」

「逃げてないよ。キミがヘタクソなだけだ」

 テスタメントが地面に刺さったままの舌を薙ぎ払う。コンクリートを容易く貫く硬度だ、当たれば僕も無傷では無いだろう。

 ま、当たらないけどね─!

「よっと!」


 地面をえぐりながら迫る舌を軽く飛んで回避。

 着地と同時に一直線にテスタメントに向かって走る。

 慌てて迎撃の構えを見せるテスタメントだが、それが間に合うほど僕は遅くない。

「〈デルタ・マグナム〉!!」

 光の拳がテスタメントの顔面に炸裂する。必殺の一撃をお見舞いしたはずだが、拳を受けたテスタメントはまるでゴムボールのように弾き飛ばされた。


「…マジ?」

「キヒひ…キかなイ!」

 テスタメントは〈デルタ・マグナム〉を食らってもピンピンしていた。

「打撃じゃ有効打にならないって感じかな」

 正解と言わんばかりにテスタメントが笑う。参ったな、愛美さんを待たせてるって言うのに…


(僕の最高威力デルタ・マグナムでダメとなると…で行くか)

 再び右手に光が集まる。しかし先程とは異なり、拳は握らず指を伸ばす。

 4本の指を束ねて手刀を構える。右手に纏った光が刃となる。


〈デルタ・マグナム〉のエネルギーを斬撃に変換した。ただし剣としての形を保つ分、エネルギーの消費量も馬鹿にならない。

 速く決めないとこっちの変身が持たない。

「一気に終わらせる!」

「ビャッ!!」

 手刀を構えて飛び出した僕に、テスタメントの舌が襲い掛かる。

 だが今度は避けず、光の剣で舌を斬り裂く。


「ギィっ!?」

「遅い!!」

 僕はテスタメントの懐に潜り込んだ。やっぱりコイツ本体の動きは速くない。僕の方が数段上だ。

 慌てて離れようとするテスタメントに光の手刀を斬り上げる。

「〈デルタ・カリバー〉!!」

 逃げる隙も無く、テスタメントが真っ二つになる。

 数秒遅れてテスタメントの死骸が盛大に爆発した。

 臨港公園前の戦闘は、一刀によって幕を閉じた。




 ∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵




 テスタメント撃破後、僕は人通りの無い場所に隠れてから変身を解除した。

 もちろん今度は誰にも見られないようにだ。

「ふうっ!…思ったよりも時間かかっちゃったな」

 日が既に傾き始めている。もう帰る時間だ。


「愛美さんとのデートは…また今度だな」

「あぁ、別の機会に埋め合わせてもらうとするよ」

「うん……って愛美さん!?何でここに!?」

 いつの間にか背後に立っていた愛美さんを見て、思わず変な声を出してしまった。

 バカな!確かに誰も居ない事を確認したはず!


「キミが隠れそうな場所を予測して隠れていたのさ!どうだい?サプライズは成功かな?」

「大成功だよ…心臓止まるかと思った…」

「あははっ!ごめんごめん♪」

 愛美さんは許してと言う代わりにウインクしてみせた。普段のカッコいい彼女からは少しイメージし辛い、可愛らしい仕草だった。


「さっ!早く帰ろうよ」

「そうだね」

 差し出された愛美さんの手を握り返し、僕達は帰路に着いた。

 色々と不安は残ってる。それでも今は、彼女の隣に居られる感覚を噛み締めておこう。

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