第7話『ステージ2』
「テスタメントだ!」
「逃げろ!!殺されるぞ!!」
顕現した異形の怪物が視線を僕の方へと向ける。
逃げ惑う人々には目もくれず、瞼の無い瞳を僕の方へと向けた。
視線から鋭い殺気が僕の肌を貫く。
「愛美さん!逃げて!!」
「キャッ…!」
咄嗟に愛美さんを突き飛ばす。
僕の判断は正しかった。僕達の立っていた場所にテスタメントの岩石のような腕が振り下ろされる。
「無垢!!」
地面を砕いた一撃が砂塵を巻き上げた。
助かるよ、キミのおかげでみんなから隠れられた。
「ふぅ…間一髪、かな?」
砂塵の中から
テスタメントの攻撃を紙一重で交わし、瞬時に変身した。周りの視線も、テスタメントが巻き上げた砂塵のおかげで気にする必要は無い。
「さてデリカシー無し男クン、僕の校外学習を邪魔したことを後悔させてあげよ─」
「…デ、ルた…まン…」
「………………は?」
聞こえてきた声に絶句する。
その声は間違いなく、目の前の怪物から聞こえてきた。喋ったのだ、テスタメントが。
「お前……まさか……!」
「みつケ…タ…!」
「〈ステージ2〉か!!」
〈ステージ2〉
それはテスタメントの進化段階を表す言葉だ。
テスタメントは霧状の〈ステージ0〉、実態化したばかりで知能の無い〈ステージ1〉、そして軽度な知性を得た〈ステージ2〉と進化していく。
0から1への進化は無条件に発生するが、1から2への進化には条件がある。
それは──
一定数の人間を食らうこと
「……おいお前…何人食った」
胸の内側からマグマのような感情が湧いてくる。
コイツが生まれるために犠牲になった人々、名も知らぬ犠牲者の顔が、ノイズ混じりに流れた過去の記憶と重なる。
僕の大切な人達。テスタメントによって物言わぬ肉塊に変えられた、大切な家族の姿が──!
「アタま…い、ツつ…カじった…!」
「そうか」
その言葉を聞いた瞬間、僕は拳をテスタメントに叩き込んでいた。
いつものような牽制じゃない。渾身の一撃をテスタメントの腹部に直撃させる。
「ギエッ…!」
全力の右ストレートを受けたテスタメントが壁に叩き付けられる。
まだだ、こんなもんじゃ終わらせない。
「お前は5回殺す」
「オまエの!あタマ!カじる!!」
「やってみろよゴミクズが」
立ち上がったテスタメントが牙を剥いて突進してくる。滴るヨダレには酸性でも付与されているのだろう、触れた地面が溶けている。
が、関係ない。
「〈デルタ・マグナム〉」
右フックの軌道で繰り出した必殺技をテスタメントの下顎に激突させる。
本来なら一撃必殺の技は、テスタメントの顔半分を抉り飛ばすのみにとどまった。
「っ!?」
「これで不快なセリフも言えなくなったな」
「〜〜〜っ!!!」
「喚くな。獣の分際で」
踏み付けるように顔面を蹴る。再び壁にテスタメントを叩きつけ、右手の拳を強く握る。
「〈デルタ・マグナム〉」
壁に踏みつけられたテスタメントの顔面に必殺技を放つ。回避不能な一撃が怪物の頭を木端微塵に吹き飛ばした。
ここで戦いは終わり。
だが僕の溜飲は下がらない。
「〈デルタ・マグナム〉…!」
残されたテスタメントの胴体目掛けて
それでも僕は…!!
「デルタ…!」
「もう大丈夫だよ!デルタマン!!」
「っ!」
振り上げた僕の手を誰かが掴む。
掴まれた右腕の先には、怯えた表情をした愛美さんが立っていた。
「愛美さん…」
「もう終わったよ!もう大丈夫だから!」
そこでようやく僕は正気を取り戻した。
右手に収束していた光が霧散していく。
「ごめん、愛美さん…」
「ううん、平気さ。少し怖かったけど…後で何に怒っていたのか教えてね」
「あ、うん…」
愛美さんは僕が単に校外学習を邪魔されて怒っていたわけじゃないって気付いていたらしい。
それなのに今は何も聞かず、ただ僕が落ち着くまで手を握っていた。
「ありがとう。君には助けられてばかりだね」
「それ以上にボクはキミに救われているさ。さっ!こんな所早く離れて、クラスのみんなが避難している所に行こうよ!」
「そうだね…」
変身を解除しながら、愛美さんと一緒に空港を後にする。来た時と同じように手を繋ぎながら、僕達は外へ向かって歩いた。
右手から伝わる心地よい熱が、僕のドス黒い感情を浄化してくれていた…
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