第6話『いざ、校外学習へ!』
校外学習当日の朝、僕は最寄り駅にやって来た。
目的地である空港に各自集合、その後は事前に決めた班ごとに観光を行う。
時間までに空港にさえ着けば良いので、行き方は完全に自由となっていた。
「さてと、愛美さんは…」
待ち合わせ場所に選んだ駅のロータリーには、不自然な人集りができていた。
あの集まり方…嫌な予感がする…
「あ、あの!もし良ければ連絡先とか教えてくれませんか!?」
「空港まで私達と一緒に行きませんか!?」
「あぁ愛美様…!朝からお美しい…!!」
僕の予感通り、人集りの中心には愛美さんが居た。
涼しい顔で押し寄せるファン達を捌き、何とか人の壁を超えようとしている。
「嬉しいお誘いをありがとう。でも今日は先約が居るんだ。ごめんね」
断りながら愛美さんがウインクした。
本人の顔立ちが良すぎるせいで、その威力も絶大なものとなっている。
今何人が失神したぞ、アレもはや兵器だろ。
「やぁ無垢。昨日は良く眠れたかい?」
「…あぁバッチリだよ」
人の壁を超えて愛美さんが傍に歩いてくる。
昨日の夜か…テスタメントが出現したせいであんまり寝れてないかな。
ってか多分愛美さんはそれを知ってて聞いてるんだろうな。意地悪な人だ。
「それじゃあ行こうか。ボク達のデーt…校外学習へ」
「今デートって言いかけたよね!?」
「別にデートでもいいじゃないか。ボク達がイチャイチャしながら観光地を巡るんだ。もうそれはデートだろう?」
「開き直っちゃったよ…」
愛美さんと一緒に空港まで向かう電車に乗り込む。
朝の通勤ラッシュからはやや遅れた時間ということもあり、電車内は空いていた。
「さて無垢、今日のボクはどうかな」
「どうって…何が?」
「服装だよふ・く・そ・う!ほら、いつもの味気ない制服じゃないだろう?」
愛美さんは両手を広げてアピールして見せた。
彼女の服装はブレザータイプの制服では無く、薄茶色のアウターとジーンズで固めた手堅いファッションスタイルだ。
「えっと…似合ってるよ」
「本当にそう思ってる?」
「も、もちろん!」
「ふぅーん……」
「あのー…愛美さん…?何か言ってくれるとありがたいんだけど…」
「……フフッ、褒めてくれてありがとう」
愛美さんの表情が柔らかい笑顔へと変化した。
さてはまた僕をからかって楽しんでいたな?
愛美さんの冗談に振り回されながらも、僕は不思議と悪い気はしなかった。数日前までなら考えられない心境の変化だ。
∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵
電車を乗り継ぐこと約1時間。僕と愛美さんは最初の集合場所となる空港へとやって来た。
平日だと言うのに空港は人で賑わっており、駅から降りても混雑が解消されることは無かった。
「凄い量の人だね、はぐれたら大変だ」
「…あのー愛美さん?何ゆえ手を僕の方に?」
「何でって繋ぐためだよ。ほら、お手をどうぞ」
「恥ずかしいなぁ…」
慣れた様子の愛美さんに手を握られ、僕達は人の波を超えていく。
事前に渡された空港内の地図を確認しながら、僕達は時間通りに担任教師の待つ場所へと辿り着いた。
「…支倉と鳳条だな!よし、確認した。班のメンバーが来るまでは近くで待っていてくれ」
担任教師に声を掛け、僕と愛美さんの出席を確定させる。他のメンバーは山仲さんと矢崎さんだけど…ざっと辺りを確認しても2人の姿は見えない。
「しばらく待つことになりそうだね」
「ねぇ愛美さん…もう着いたんだし手を離してくれても良いんじゃ…」
「ヤダ」
「なんで!?」
「ボクが繋いでいたいから。それじゃあダメ?」
「良い…けど…」
「じゃあ決まりだね♪」
愛美さんは僕を手離すつもりは無いらしい。嬉しそうに笑う彼女を見て、僕は諦めのため息をついた。
この恥ずかしさに早く慣れなければ…そう考えていた時だった。
「っ!」
ポケットに入ったスマホが揺れる。
近くにテスタメントが出現した合図だ。
「愛美さん、テスタメントだ。場所は…っ!?」
場所を確認しようとスマホを取り出した瞬間、空港内が大きく揺れた。
頭を過ぎる最悪の予感。そして予感の的中を示すように、僕の目の前に黒い霧が収束した。
「嘘だろ…!」
「これってまさか…!」
「テスタメントの出現場所は
人々が集う空港内の広場に、厄災の獣が顕現する。
波乱に満ちた校外学習が本当の意味で幕を開けた…
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