第5話『本当に彼氏?』
激動の一日を越えた翌日、登校してきた僕を校門前で待ち構える、2人の女子高生がいた。
「貴方が支倉君ね」
「…えーっと…そうですけど…」
おずおずと返事をする僕を2人が値踏みするように観察してくる。
よく見ると2人とも僕と同じクラスにいた女子で、愛美さんの取り巻きみたいになってた子だ。
「…愛美様の彼氏にしてはパッとしないわね…」
「でも体格は悪くないね。ウチは合格で良いかも」
どうやら2人の間で僕の評価が割れているらしい。
確かに顔はダメかもしれないが、体格には自信があるぞ。だって普段から命懸けで身体動かしてるし。
「というか君達は…」
「私は
「ウチは
「誰が喧しくて落ち着きのない子よ!」
「そこまでは言ってないと思うけど…」
2人の女子高生──山仲さんと矢崎さんが丁寧に自己紹介をしてくれた。
一応同じクラスの筈なんだけど、多分2人は今日まで僕のことを認知してなかったな…
「それでえっと…まだ僕に何か用?」
「そうだったわ。貴方にはこれを渡しておくわ」
山仲さんが差し出してきたのは、何かの会員証だった。
僕の名前が刻まれており、ナンバーの部分には〈0〉と記載されている。
「これは?」
「愛美様ファンクラブの会員証よ!彼氏である貴方が愛美様のファンクラブに所属してないなんて有り得ないもの!」
マジか、愛美さんにファンクラブなんてあるのか。
「昨日は大変だったんだよ〜?愛美様に彼氏ができたって聞いて大騒ぎになったし…」
「そうよ、過激な人なんか貴方を拷問にかけろ!とかほざいていたんだから」
「知らないうちに命の危機に晒されてたのか…」
愛美さんの人気は僕の想像を遥かに超えていたらしい。そんな人が今や僕の彼女…ちゃんと付き合えていないのが悔やまれるな…
「だけど私達が暴走した会員達を説得したのよ!愛美様の恋路は我らの恋路も同然!ってね!」
「そうだったんだ…2人ともありがとう」
「いえいえ、お礼はコーラ1本で大丈夫ですよ〜♪」
奢れってことだろうか。
別に全然構わない。彼女達のしてくれたことを考えれば安すぎるくらいだ。
「そういえば愛美さんは一緒じゃないの?」
「あのお方なら今は朝練の最中よ」
愛美さんは演劇部の部長をやっている。
朝から姿が見えないのは、部活に精を出して居るかららしい。
それなら先に教室に行こう。そう思った時、背後から愛美さんが僕に抱き着いてきた。
「おはよう無垢」
「ま、愛美さん!おはよう…」
愛美さんはジャージ姿で僕を抱きしめた。ほんのりと熱を感じることから、それなりに身体を動かしてきたことが分かる。
…あと言い難いんだど、ちょっと汗の匂いも…
「おはようございます愛美様!」
「おはよう翔子、律。3人で何話してたの?」
「支倉君が愛美様に相応しいかチェックしてました〜」
あ、それ言っちゃうんだ。
普通は本人には隠しとくとかしそうなもんだけど。
「…本当にそれだけ?」
「本当ですとも!ね、律!」
「はい〜」
「ふぅーん…ま、2人なら大丈夫だよね」
愛美さんは何か納得したように微笑んだ。
納得したはずなのに、愛美さんは僕を離そうとはしなかった。それどころか、手で僕を目を覆い隠してさらに距離を詰めてきた。
「大丈夫だと思うけど一応言っとくね……彼はボクのだから」
愛美さんが耳元でそう囁く。抱き締める力がやや強くなり、彼女が自分の存在をアピールしてくる。
「あ〜〜〜!ありがとうございます愛美様!」
「朝からこんな可愛い愛美様が見れるなんて…彼氏、グッジョブ!」
愛美さんの威圧を受けた2人は何故か喜んでいた。
今の相当怖かったと思うんだけど…ファンからしたら嬉しいものなの…?
「それでは愛美様!私達は一足先に教室に行っていますので!」
「後は2人でごゆっくり〜」
そう言い残し、2人はそそくさと走り去った。
短い時間しか話してないけど、悪い人では無いのはよく分かった。
というかファンの鏡見たいな人達だった。
「あのー…愛美さん?僕はいつまで抱き締められてれば良いんでしょうか?」
「んー…ボクが満足するまでかな」
「それって具体的にはどれくらい?」
「あと2年」
「高校生活終わっちゃうんだけど!?」
冗談だよ、と笑いながら愛美さんが離れた。
彼女が離れると同時に、鼻腔をくすぐっていた良い匂いが離れていった。
「じゃあボク達も教室に…あ」
「どうしたの愛美さん?」
「ご、ごめん無垢!今のボク…汗臭いよね!?」
「そんなこと気にしないよ」
「キミが平気でもボクは気にするんだ!あああ…ケアもしないで抱き着くなんて…!」
こういう姿を見ると、愛美さんも女子なんだなと思い出す。良い匂いだったよと言うのは、さすがにモラル違反か。
「とにかく!ボクは着替えてから教室に行くから!キミは先に行ってて!」
「分かった」
愛美さんと一旦離れ、僕だけが先に教室に向かって歩き出した。
背後から彼女の悶絶する声が聞こえてきたが、今は無視して歩くことにした。
∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵
「お待たせ無垢。さっきはごめんね?」
教室で本を読んでいると、着替えを終えた愛美さんがやって来た。さっきまでのジャージ姿ではなく、ブレザータイプの制服に着替えている。
「別に大丈夫だよ。変な匂いとかはしなかったし」
「……へぇ」
「ど、どうしたの?」
「ううん、何でもないよ」
愛美さんが含みのある笑みで誤魔化す。
何か気になることでもあったんだろうか?
「それより明日の校外学習の集合場所を決めようじゃないか」
「校外学習?そんなのあったっけ?」
「横浜観光に行くって前に話していたの、忘れたのかい?」
そうだ思い出したぞ。
ウチの高校では一年に一回、校外学習がある。2年生は修学旅行の事前学習も兼ねて空港に行き、そこから横浜の街を観光するんだった。
どうせ欠席するつもりだったし完全に忘れていた。
「悪いけど僕は…」
断ろうとして昨日の夕方の出来事を思い出す。
駅のホームで愛美さんが見たって言う謎の影。急に消えたテスタメント反応。もしテスタメントが意志を持って愛美さんを狙っているとしたら…
「行かないの?」
「…いや、行くよ」
──今は僕がそばに居た方が安全だ。
こうして僕達は横浜へと向かうことになった。
新たな脅威が待ち受けているとも知らずに…
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