第2話『鳳城 愛美は愛したい』

「付き合うって……買い物とか?」

「いいや、ボクの彼氏になって欲しいって事さ」

「?????」

 鳳条さんは何を言ってるんだ?彼氏?僕が??

 突然の要求に僕の頭は混乱状態になっていた。


「ボクがデルタマンの大ファンって事は知ってる?」

「それは…知ってるけど…」

「キミはデルタマンなんだよね?」

「…うん」

「じゃあキミが好きだ!ボクと付き合って!」

「理屈は納得できるんだけど突然過ぎないかな!?」


 確かに僕はデルタマンだ。デルタマンが好きな鳳条さんにとって、僕は推しの中の人ってことになる。

 でもいきなり正体を知ったからって告白するのは違うんじゃないかな!?


「ほ、ほら!僕はその…クラスじゃ陰キャだし!こんなのと付き合ってるなんて皆に知られたら、鳳条さんの方が大変なんじゃ…」

「周りの評価なんて関係ない。憧れの存在であるデルタマンと、1人の女として付き合いたいんだ」


 鳳条さんの真剣な眼差しが僕を射抜く。

 正直に言うと、嬉しい。学校一の美女が僕のことをここまで思ってくれてるなんて、嬉しくならないはずが無い。


「でもなぁ…」

「ここまで言ってもダメか…なら仕方ない」

「……鳳条さん?何をしていらっしゃるんですか?」

「キミの変身解除シーンをネットに流そうかと」

「ちょっと!?」

「もちろん止めるよ。キミがボクの告白を受け入れてくれるならね♡」


 鳳条さんの口調はふざけているが、その目は本気だ。ここで僕が断れば、間違いなく彼女は正体をバラすだろう。

 もはや選択肢は残されていなかった…


「……分かった…鳳条さんの要求を飲むよ…」

「本当かい!?」

「うん…ただし!絶対に正体はバラさないでね!」

「当然だとも!これからよろしくね、ダーリン♡」

「その呼び方人前では絶対しないでね!」

 こうして僕は、何故か学校一のイケメン女子と付き合うことになるのだった…




 ∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵




 昼休みの真っ只中、教室全体がザワついている。

 ヒソヒソと話しながら、皆が僕を見ていた。

 正確には僕と彼女を。

「はい無垢むく!あーん♡」

「あのー…鳳条さん…皆が見てるんで止めて欲しいんですけど…」


 鳳条さんは周りの視線など意に介さず、箸で摘んだ唐揚げを差し出してくる。

 彼女曰く「付き合ってる男女なら当然の営みさ」との事。

 …こんな恥ずかしい事をやらされるくらいなら、いっそ正体をバラされた方がマシだったのでは…?


「…あーん♡」

「聞こえてるよね!何で無視するの!?」

「…呼び方…」

「へ?」

「ボクはキミを無垢って、下の名前で呼んでるのに…どうしてキミは彼女であるボクに“鳳条さん”なんて他人行儀な呼び方をするんだい?」

「そ、それは…」

「それとも…ボクじゃキミの彼女には相応しくないかな…?」


 わざとらしい上目遣いで鳳条さんが覗き込んでくる。その瞬間、クラス中に殺気が充満した。

 あ、これ選択肢間違えたら死ぬヤツだ。

「…愛美まなみさん、恥ずかしいので止めてください…」

「良いよ♡」


 鳳条さん改め、愛美さんは満足したのかアッサリと引き下がった。本当に距離の詰め方が容赦なさすぎて、正直かなり戸惑っている。


「お願いだから人前であーんとかは止めて欲しいな」

「ダメなの?」

「…クラスの視線が痛いんです」

「そうか、じゃあ…これならどう?」

「っ!?」


 愛美さんが唐揚げを咥えたかと思うと、僕の口に押し当てて来た。

 つい反射的に受け取ってしまい、口移しで唐揚げを食べてしまった。


「ま、愛美さん!?」

「関節は好みじゃ無かったんだね!これはボクも少し恥ずかしいけど…キミの願いなら叶えるさ♡」

「悪化させてどうすんのさ…!?」


 箸で食べさせてもらった方が全然マシだったぞ!?いきなり口移しって…マジでこの人の距離感どうなってんだ!?

「フフッ、キミは本当に良いリアクションをしてくれるね…からかいがいがあるよ」

「それ褒めてる?」

「もちろん!そういう所が…すっごく可愛いよ」

「〜〜〜〜〜〜っ!」


 愛美さんが耳元で囁いてくる。

 女子にしてはやや低音な声が鼓膜を震わせ、僕の脳に直接彼女の魅力を流し込んでくる。

 …さすがは学校一のモテ女子…たった一言で僕の理性が崩壊しかけたぞ…!

「……ふっ……」

「あれ?耐えた?」

「舐めないで欲しいな…そんな簡単に堕ちるほどヤワじゃないさ!」


 こちとら腐ってもヒーロー〈デルタマン〉だ!

 そう簡単に骨抜きになんてされな──

「ふぅー…」

「ひゃあっ!」

 愛美さんの吐息が僕の耳に拭きかけられる。


「愛美さん…!」

「あははっ!可愛いリアクションだね!」

「勘弁してくださいよ…!」

 僕は真っ赤になっているであろう顔を両手で隠した。こんな筈じゃなかったのに…僕は完全に愛美さんに踊らされてしまっていた。

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