正体バレしたヒーローがイケメン女子と付き合う話
転校生
第1話『告白は素顔になってから』
朝の教室、授業が始まるまでの僅かな自由時間。
登校してきたクラスメイト達が騒ぐ中、僕──
近くの席では陽キャなグループ数名が、スマホ片手に楽しそうに談笑している。
見ての通り、クラスでの僕は陰キャだ。口が裂けても陽キャだなんて言えた生活はしていない。
高校2年生になったと言うのに、未だに学校の友達は0。1日通して誰ともまともに会話しないなんて日もザラにあるくらいだ。
そんな僕にも、唯一話しかけてくれる人がいる
「おはよう支倉君」
「お、おはよう
彼女は
演劇部部長で、この学校一の美人だ。
顔立ちは凛として中性的、髪型はウルフカット。それなのに笑うと絶妙な幼なさを感じさせる。まさにイケメン女子という言葉の擬人化みたいな人だ。
「おはようございます愛美様!」
「今日も見目麗しゅうございます愛美様!」
「うん、皆もおはよう」
鳳条さんはすぐに他のクラスメイト達に歓迎され、僕から離れていった。
特段仲が良い訳でも、何か接点がある訳でも無い。ただ単純に同じクラスなだけ、僕と彼女の関係はその程度だ。
「そう言えば愛美様!今朝のニュースはご覧になられましたか!?」
「そうですよ!例のヒーロー!また活躍したみたいですよ!」
「もちろん知っているとも!」
鳳条さんと取り巻きの女子が盛り上がっている。
彼女達の話題は世間を騒がせている仮面のヒーロー〈デルタマン〉だろう。
「早朝に現れた怪人を倒して、去り際には『朝の体操にしては物足りないかな』って!」
「余裕な対応…頼れるヒーローそのものですわ!」
「やっぱりカッコイイなぁ…デルタマンは…」
鳳条さんがスマホの画面に収められたデルタマンの写真を見てウットリしている。彼女はデルタマンの大ファンらしく、ヒーローの話題になると途端に表情が恋する乙女のそれになる。
その顔がまた人気なため、デルタマンが活躍する度にみんな鳳条さんに伝えていた。
そんな中、僕だけは机に突っ伏して必死に顔を隠していた。
そりゃあ顔なんか上げられるわけないだろ…だってデルタマンの正体は──
その瞬間、僕のスマホが震えた。
画面に地図が表示され、高校の部分に赤いピンが刺されている。正確には高校の校庭がある場所に。
「マジかよここじゃんか…!」
僕は周りに見られないよう、気配を殺して教室を出た。そのまま廊下を駆け抜け、屋上へと飛び出す。
フェンス越しに見下ろす校庭には、僅かな黒い霧のようなものが集まりつつあった。
「うわぁ…今朝倒したばっかなのにもう出るのかよ…仕方ない、一限が始まる前に終わらせよう」
僕は右手を天に掲げ、意識を集中させた。
「〈デルタ・チェンジ〉!!」
手首に付けた〈デルタバンド〉が輝き、光が僕の身体を戦う姿へと変える。僕は赤と白で彩られた仮面の戦士─〈デルタマン〉に変身した。
「よしっ、さっさと出てきな」
僕の変身が完了すると同時に、校庭に集まっていた霧が実体化する。黒い霧は異形の怪物─〈テスタメント〉へと変貌した。
「グウオアアアアアアアアア!!」
「とうっ!」
テスタメントの咆哮が轟く。僕も応戦するべく、屋上から飛び降りて校庭に降り立つ。
校舎からは咆哮を聞いた生徒達が、次々と様子を見に窓から顔を覗かせた。
「何あれ?」
「テスタメントじゃん、ヤバ!」
「おい見ろ!デルタマン居るぞ!」
「本当だ!来るのはええ!!」
周りの反応は、恐怖が2割、興奮が8割って所かな。
よしよし、ギャラリーも見てる事だし張り切っちゃおうかな!
「グルゥアア…!」
「おーおー腹ペコって顔だね。今日何時起き?ちゃんと朝ご飯食べたの?」
「ガアアア!!」
「聞く耳持たずってか!」
テスタメントが鋭い爪で切りかかってくる。が、残念。その程度の攻撃じゃ僕は捉えられないよ。
連続で振るわれる爪を身を捩って交わし、冷静に相手の動きを分析する。
「そこ!」
「ギッ!」
テスタメントの脇に小さくジャブ。牽制の一撃の後に本命の回し蹴りを叩き込む。
産まれたての怪物はアッサリと蹴り飛ばされた。
「行けー!デルタマーン!」
「良いぞその調子だ!」
「頑張ってー!」
「むははっ、応援が心地良いね」
でも時間かけるのはゴメンだ。僕は渾身の一撃を決めるべく、〈デルタバンド〉を操作する。
「さぁご賞味あれ!今生最後の感触だ!」
「ギィィ…ガアアアアア!!」
「〈デルタ・マグナム〉!!」
光を纏った右ストレートがテスタメントの顔面に炸裂する。負荷に耐えられなかったテスタメントの身体が爆発した。
「うおおおおお!」
「デルタマンが勝ったぞ!」
「こっち見てー!」
こう言う声を聞くとヒーローやってて良かったって思えるんだよなぁ。
「応援ありがとう諸君!学業頑張ってくれたまえ!」
学生達に手を振ってから僕は大きくジャンプした。
校舎を軽く飛び越え、再び屋上へと戻ってくる。本当は速やかに離れるべきなんだけど、戦った場所が場所だし、高校から出るわけには行かない。
「ま、気付く人なんて居ないと思うけどね」
〈デルタバンド〉のスイッチを押し、変身を解除する。頼れるヒーローは姿を消し、後には冴えない陰キャが居た。
いつも通りの詰まらない日常へと戻ろうとした。
その時だった。
カシャッ
「ん?」
乾いたシャッター音が屋上に響く。
音は僕の背中から聞こえてきた。ホラー映画の前振りのように、僕はゆっくりと後ろを向く。
「…嘘だろなんでここに居るんだ…」
振り返った僕の前には、鳳条さんが立っていた。
彼女は驚きの表情を浮かべたまま、スマホのカメラを僕へと向けていた。
「あー…えーっと…なんで屋上に…?」
「デルタマンの活躍をどうしても俯瞰で見たくてね」
「そっかぁ…なるほどねぇ…」
「それでその…キミがデルタマンなのかい?」
「…………」
さてここで問題だ。
僕の正体がクラスのイケメン女子にバレてしまった!
ここからどうする?
A→こんな事態は想定済み!記憶を消す
B→見られたからには仕方ない…彼女を消す
C→無理。現実は非常である
僕の答えは…これだ!
「お願いします鳳条様どうか誰にも言わないでください!!」
答え:D→情けなく土下座して黙っててもらう
いや他に選択肢無いから!これしかもう無いから!
とにかく今は彼女に黙っててもらうしかない!この際靴も舐める覚悟を決めなくては…!
「…分かったよ支倉君…顔を上げて欲しいな」
「だ、黙っててくれるんですか…!?」
「うん、キミが条件を呑んでくれるならね」
「喜んで!僕にできることなら何でも!!」
「じゃあ…ボクと付き合って?」
「へ?」
驚いて顔を上げる僕。
視界に飛び込んできたのは、見たこともないくらい嬉しそうな顔をした鳳条さんだった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます