第25話 キミはいま何処に…?
*
「発現した精霊様が、ヒトや世界に害をなさないため、愛の意志力は必須です。そして精霊の子の受肉には、愛を育むパートナーが必要になります」
ミアさんは女性。必然、パートナーは男性であることが望ましい。
そうして、異世界において、ミアさんの最適なパートナー探しが行われた。
実は
それは人工的に創られた、属性を持たない精霊様なのだという。
その精霊様のチカラを使って、パートナーの選別作業が行われた結果、該当者なし、という結果になってしまったそうだ。
「ですがひとりだけ、適正ありとされた者がいました。それが異世界に地質調査に来ていたスタッフのひとり、あなたのお父様だったのです」
「お、親父が……?」
オレはよほど情けない顔をしたのだろう、隣のケイトさんが「最後まで話を聞きなさい」とオレの肩を小突いた。す、すみません。
「あくまでそれは適正あり、とするものでした。そこからさらに捜索範囲を地球全土にまで広げ、あなたが候補に上ったのです」
「――ッ!?」
オレが……選ばれた?
そんな、でも、オレは……。
「さて、里見ユウイチさん、正直に答えてください」
楓さんが居住まいを正す。
ケイトさんも腕を組み、オレにジッと圧をかけてきた。
「あなたはミアさんのことを愛していますか?」
「そ、それは……はい、たぶん……」
ゴクリと、オレはヒリついた喉に唾液を流し込む。楓さんは続ける。
「それは女性として? それとも母親として?」
「――ッ!」
ダメだ。このヒトたちはすべてわかっているんだ。
オレが母親というものに対してトラウマを持っていること。
ミアさんに対して、母親の代わりを求めていたこと。
そりゃあな、オレの過去くらい徹底的に調べ上げるよな。
大事な精霊様がこの世界に誕生するかどうかの瀬戸際だもんな。
「ミアさんへの気持ちは、よくわかりません」
オレはまな板の上の鯉だ。
こちらの事情も、過去も、トラウマも、楓さんはすべて知っている。
その上で問われているのはオレの本音。
ならば、包み隠さずこころを吐露するしかない。
「オレは……ミアさんに母性を……母を求めていたと思います……」
それは紛れもない事実だ。
だって、ミアさんはオレの母親としてやってきたから。
どうして最初から普通の女性として会いに来てくれなかったのか。
それは多分、いまある制度を使って地球に来るのが面倒が少なかったからだろう。
あんな親父でも、オレとミアさんの当て馬にされたのだと思うとちょっと同情する。
「女性として好きかどうかは、わからないです……」
「自分の気持がわからない、なんてこと、あるのかしら?」
ケイトさんだった。ジロっとオレを睨むように見てくる。
「ほ、本当なんです。いままで抱いたことがない気持ちなので」
「ほう……ということは、いままでにない感情を、あなたはミアさんに抱いていると?」
「それは、そうです。だからお願いです」
オレはその場で立ち上がる。そして頭を下げる。
「ミアさんに会わせてください。直接会って、彼女に聞きたいこと、言いたいことがあるんです。そうすればきっと――」
この曖昧な気持ちにも、きっと答えがだせるはず。
とにかく会って話をしなければ。
「まあ、ユウイチさんの言うことももっともですね」
「それじゃあ――」
楓さんのことばに顔をあげる。
「ですが申し訳ありません。それはできかねます」
「どうしてですか!?」
オレは身を乗り出して叫んだ。
ガタン、とテーブルに膝がぶつかる。
前につんのめりながら楓さんを見つめた。
「いやあ、だってミアさん、もう異世界に帰っちゃいましたから」
「え」
「お世話になりました、ごめんなさいって、あなたに伝えてって」
「そ、そんな……!」
オレは、目のまえが真っ暗になった。
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